「戦場のタクシー」と呼ばれ、ベトナム戦争やイラク戦争で活躍したM113装甲兵員輸送車。しかし、地雷や即席爆発装置(IED)に対する脆弱性が明らかになると、前線での利用は減り、多くの国でモスボール化されていたが、ウクライナでの活躍で再評価されている。
M113装甲兵員輸送車は、ロシアによる侵略を受ける中、ウクライナ兵士の命を救う上で重要な役割を果たし続けている。ウクライナは西側からの軍事支援の一つとして、2022年にアメリカからM113を受け取った。その後、スペイン、オーストラリア、リトアニア、オランダ、デンマークなどからも供与されている。アメリカの供与数だけでも900両以上とされているので、総数はゆうに1000両を越えているとされ、ウクライナ軍の主力装甲兵員輸送車(APC)といっても過言ではない。
M113装甲兵員輸送車
M113は1950年代後半にアメリカで開発された無限軌道装甲兵員輸送車で、1960年のベトナム戦争から装甲兵員輸送車として広く利用が始まった。高い機動性と11名の兵員を輸送できることから「戦場のタクシー」と呼ばれている。軽量のアルミニウム装甲を使用することで生存性よりも機動性を優先、走破性が高く、最高速度は64km/hに達し、航続距離は480km、水上も航行可能だ。重量は12.3tと軽量で空中投下も可能。汎用性が高く、様々な武装追加が可能で歩兵戦闘車としても利用可能できる。基本構成の前部装甲は200mの距離で12.7mm徹甲弾、側面装甲は7.62mm口径の弾丸を防ぐ。
しかし、機動性を優先した上の軽装甲はその後、大きな損害を生むことに。地雷やIED(即席爆発装置)に対して脆弱性が露呈。現代の紛争地帯、前線において兵員を安全に輸送することが難しいとわかるとM113は前線から消え、後方支援に回される事に。米軍では2007年から段階的な廃止が始まった。各国でも地雷に強い防爆車両が普及した事で、モスボール化されていった。ただ、延べ8万両が生産されたM113は世界中に多数残っており、米陸軍だけでも6000両を保有。各国で余剰戦力となっていたM113はウクライナへの軍事支援として積極的に供与された。
ウクライナでタクシー、救急車両として活躍
既にお払い箱となっていたM113はウクライナで評価を高めた。あるウクライナ兵士はM113について「ソ連製の歩兵戦闘車と比べると、M113装甲兵員輸送車ははるかに機動性が高く、操作も容易で、オートマチックトランスミッションを装備しており、メンテナンスも容易だ。装甲は大口径の機関銃やグレネードランチャーの攻撃にも十分耐えられる」とコメントし、M113を賞賛した。評価が高い要因として、M113の戦場での役割がある程度限定されているのがあるかもしれない。ウクライナ軍のM113は前線でも利用されているが、交戦する事は少ないとされ、役割はあくまで兵員と負傷者、物資の輸送だ。
ウクライナ軍は下車戦闘を積極的に活用している。ウクライナ軍は前線に塹壕、障害物帯、要塞化された陣地のネットワークを構築しており、M113はそこまで、何度も往復しながら兵員や補給物資を輸送。負傷者が居れば回収するといった役割を担っている。兵員を下車させると直ぐに前線から撤収する。機動性が高いため、ロシア軍がM113を発見しても、捉える事がむずかしく、砲弾やミサイルさえ直撃しなければ、乗員は守れるだけの装甲はある。弱点である地雷もM113が進むのは自軍の前線までになり、ある程度、脅威が取り除かれた土地を進むので地雷の遭遇率は低く、銃弾や砲弾の破片から兵士を守り輸送できる。
もちろん、戦線突破に使用する事も可能で、ウクライナ軍のM113には12.7mmブローニング機関銃が装備されており、必要に応じてグレネードランチャーやTOW対戦車ミサイルを装備できる。ただ、その役割はM113よりも装甲、攻撃力が強いM2ブラッドレー歩兵戦闘車が今のところ担っている。
とはいえ、被害少ないかといえば、そうではない。ウクライナ軍のM113はこれまで少なくとも250両以上が破壊ないしは損傷している。ただ、それまでウクライナ軍の主力であったBMP-1やBMP-2といったソ連時代の歩兵戦闘車より生存率は高いとされる。アメリカはまだ5000両のM113を保有しており、継続的な供与が可能だ。