多国籍ミサイル企業MBDAは、NATO標準の120mm滑腔砲から発射可能な新型ミサイル「Akeron MBT 120」を発表し、戦車の戦闘能力を飛躍的に向上させる可能性を示した。このミサイルは、戦車に視線外(NLOS)攻撃能力を付与することを目的としており、ウクライナ戦争で得られた戦訓が開発の大きな推進力となった。
MBDA launch AKERON MBT 120, an innovative solution for Main Battle Tanks launched missiles
ロンドンで開催された防衛展示会「DSEI 2025」で初めてそのコンセプトが披露された「Akeron MBT 120」は、西側諸国の主力戦車が標準装備する120mm滑腔砲に対応するよう設計されている。これにより、戦車はこれまで直接視界内での交戦に限定されていた能力を大きく超え、見通し外の目標を効果的に攻撃できるようになる。
スペック
Akeron MBT 120は、既存の120×570mm砲弾とほぼ同じ物理寸法(全長約984mm、重量約20kg)を持つため、エイブラムス、レオパルト2、ルクレールといったNATO加盟国の主要戦車に加え、日本の90式戦車や10式戦車、韓国のK2戦車など、120mm滑腔砲を搭載する幅広い戦車に適合する。既存の弾薬ラックや自動装填機構との互換性も確保されており、火器管制システムへのプログラムモジュール追加のみで運用が可能となるため、プラットフォームの大規模な改造は不要とされる。これは、各国が迅速にこの新技術を導入できることを意味する。
計画されている射程は1~5kmのNLOS(見通し外)範囲であり、戦車の既存の直接照準最大射程(約5km)と組み合わせることで、戦車の最大交戦距離は理論上10kmにまで延伸される可能性がある。これにより、戦車はより安全な距離から敵を攻撃できるようになり、生存性が向上する。
ミサイルはパッシブな電子赤外線(EO/IR)シーカーを搭載した撃ちっぱなし式(ファイア&フォーゲット)を採用しており、発射後すぐに戦車は陣地転換が可能となる。低煙推進剤を使用したブースターロケットモーターにより、発射時の視認性も低下する。主な用途は対戦車・装甲車両で、弾頭には装甲破壊弾頭を搭載し、戦車の脆弱な上面を狙うトップアタックに対応している。また、対歩兵・非装甲目標用の炸裂弾も検討されており、多様な脅威に対応できる汎用性を持つ。その性能は、携行型対戦車ミサイルのジャベリンに近いとされる。
現代の戦車はデータリンクシステムを搭載しており、他のユニット(ドローンや前方展開部隊など)が検知した標的情報をリアルタイムで取得できる。Akeron MBT 120は、このような情報連携能力を最大限に活用し、戦車が自ら標的を視認することなく攻撃を可能にする。
ロシア軍は以前から砲身発射ミサイルを運用
ロシア軍は冷戦期から砲身発射型の誘導ミサイルを実戦配備・運用しているが、これらはレーザー誘導型/指示追尾型であり、ミサイル発射後も砲手が標的にレーザーを照射し続ける必要がある。そのため、射程は発射側が目視またはレーザー照射で追跡できる範囲に限定され、射程は通常の砲弾と大差なかった。命中精度は向上するものの、発射側はレーザー照射を継続する必要があるため、その間戦車は露出しやすく、敵からの反撃を受けるリスクがあった。また、電子戦や煙幕による妨害にも脆弱であるという欠点がある。
「Akeron MBT 120」の開発は、ロシアとウクライナの戦争から得られた深刻な教訓に強く影響されている。西側諸国の主力戦車であるレオパルト2やエイブラムスが予想以上の損失を被ったことは、「陸の王者」と称された主力戦車が、目まぐるしく変化する現代の戦闘様式に対応し、新たな能力を獲得する必要があることを浮き彫りにした。特にドローンの投入とセンサー技術の進化は、交戦距離を著しく拡大させ、戦車を前線に投入するリスクを高めている。この点において、Akeron MBT 120は戦車の交戦距離を大幅に延伸し、撃ちっぱなし方式によって発射後即座の陣地転換を可能にする。また、自走砲や榴弾砲のような間接砲撃よりも即応性が高く、迅速な火力支援を提供できる点も大きな利点である。MBDAは2026年にデモンストレーション射撃を実施し、2027年の導入を目指している。現状ではコストに関する具体的な情報は公表されていないが、その戦略的価値は極めて高いと評価されるだろう。