2025年12月、タイとカンボジアの国境沿いで、再び軍事紛争が勃発した。この対立の根源は100年以上前の植民地時代の国境画定に遡る領土問題にあり、両国間ではこれまでも断続的な衝突が繰り返されてきた。この2025年12月の戦闘は、数週間にわたる激しい軍事衝突へとエスカレートし、その結果、多数の民間人・兵士に死傷者が出るとともに、大規模な住民の避難を余儀なくされる事態となった。国際社会の仲介もあり、最終的に両国は12月27日に即時停戦に合意し、約20日間にわたる戦闘に終止符が打たれた。
この紛争のさなか、特に軍事専門家や愛好家の間で注目を集めたのが、タイ軍のアメリカ製M48パットンとカンボジア軍のソ連製T-55という、第一世代戦車同士による戦車戦が発生したという事実である。.
M48A5パットン vs T-55:SNSで拡散された戦車戦の詳細
この戦闘の様子は、タイ陸軍によって撮影されたとされる動画がSNS上で拡散されたことで広く知られることとなった。場所は特定されていないが、国境地帯のジャングルの中で、タイ軍のM48戦車部隊が、高台に構築された戦車砲陣地から、眼下の森に展開するカンボジア軍のT-55戦車4両を発見した状況から戦闘は始まった。
タイ軍は、陣地に配置されたM48A5戦車の105mmライフル砲をもって、T-55戦車群に向けて砲撃を開始。動画では、被弾したT-55戦車から火柱が上がる様子が確認されている。カンボジア軍側の具体的な損害規模は不明だが、タイ軍は高所に位置し、一方のカンボジア軍は低地に展開していたという地理的優位性も相まって、この第一世代戦車同士の遭遇戦は、M48A5の圧倒的な勝利に終わったと評価されている。
タイ陸軍のM48A5パットン戦車
タイ陸軍が投入したM48A5は、戦後の1953年に米国で開発された第一世代戦車「M48パットン」シリーズの最終改良型の一つである。タイ軍は1970年代に米国から105両のM48パットンを購入し、長きにわたり運用を続けている。タイ陸軍は、M48の後継であるM60A3、ウクライナから導入したT-84オプロート、そして最新鋭の中国製VT-4といった近代的な戦車も保有しているにもかかわらず、今回のカンボジアとの国境紛争では、多数のM48A5の投入が確認された。
M48A5は、初期型が装備していた90mmライフル砲から、より強力な51口径105mmライフル砲に換装されている点が最大の特長である。さらに、射撃管制システム(FCS)、最新式照準器、レーザー測距儀などの徹底的な近代化改修が施されており、その戦闘能力は原型から大きく向上している。
カンボジア陸軍のT-55戦車
一方、カンボジア軍が主力として運用しているT-55は、1958年にソ連でT-54の改良型として開発された主力戦車であり、M48と同じく第一世代戦車に分類される。T-54とベースを共有するため、「T-54/55」と表記されることも多い。カンボジア軍は、ソ連製のT-55戦車約300両に加え、チェコスロバキア製のT-55AM1を100両、さらにはT-55の中国生産版である59式戦車50両と、総数で多数のT-55系戦車を保有している。しかし、生産国や派生型が混在しているものの、保有する戦車の全てが旧式のT-55系にとどまっており、近代化された戦車は確認されていない。
T-55は100mmライフル砲を搭載し、最大速度50km/h、航続距離450kmというスペックを誇り、登場当時は第一世代戦車としては「最強」と称された。10万輌以上が製造され、開発途上国では現在も現役で活躍していることから、「戦車版のAK-47」とも呼ばれている。
火力・技術力の決定的な差
今回の戦闘において、M48A5がT-55を圧倒した背景には、両戦車間の技術的な格差が歴然として存在した。火力に関して、第二世代戦車と同じ規格の105mmライフル砲を搭載するM48A5が、T-55の100mmライフル砲よりも優位に立っている。さらに、M48A5は近代的なFCS、レーザー測距儀、そして暗視装置といった電子機器を備えていた。
対照的に、カンボジア軍のT-55は旧式のままであり、近代的な改修がほとんど施されていないとされる。この結果、T-55は遠距離での射撃精度や夜間戦闘能力においてM48A5に大きく劣り、同じ「第一世代戦車」という分類でありながら、その実質的な戦闘能力には決定的な差が生じていた。
戦車単体の性能差に加え、タイ軍は総合的な軍事力の優位性を最大限に活用していた。タイ軍は、F-16やグリペン戦闘機による空爆を戦車部隊の支援に併用しており、カンボジア軍の拠点や戦車部隊に対して圧倒的な制空権を保持していた。また、ISR(情報・監視・偵察)能力においてもタイ軍は圧倒的であり、カンボジア軍より先に敵の標的を発見し、先制攻撃を仕掛けることが可能であった。両戦車とも旧世代の鋼鉄装甲であるため、現代の対戦車兵器や主砲弾に対しては脆弱だが、タイ軍は先制攻撃により、相手の防御が整う前に攻撃を仕掛けることができた。さらに、タイ陸軍はカンボジア軍と比較して練度が高く、高いロジスティクス(兵站・補給能力)を維持しており、組織的な運用能力でもカンボジア軍を上回ると評価されている。
今回の戦車戦では、タイ側の高台という地理的優位性が勝利に大きく貢献したが、軍事専門家の見解では、仮に同じ条件下で戦闘が行われたとしても、M48A5が勝利を収めていた可能性が高いと結論付けられている。これは、戦車の近代化レベル、乗員の練度、そして総合的な作戦遂行能力の差が、単なる戦車同士のスペック比較を超えた、戦いの帰趨を決定づける要因となったことを示している。