タイ陸軍は、東部から東北部にかけてのカンボジア国境での戦闘作戦中に、中国製主力戦車 VT-4(MBT-3000)の主砲砲身が破裂する重大な事故が発生したことを13日に公式に発表しました。軍当局は現在、事故原因を特定するため、詳細な技術調査と分析を急ピッチで進めています。
この事故は12日、両国間で紛争が続く国境前線の激戦地区で発生しました。タイ軍の説明によると、砲身の破裂は、砲撃中の内部破壊によって引き起こされたとみられており、敵の攻撃による被弾ではないと強く示されています。
破裂により、主砲の砲身自体が使用不能となっただけでなく、レーザー警戒装置や高度な射撃統制システムなど、周辺の重要機器にも甚大な損傷が生じました。これにより、当該VT-4戦車は戦闘継続が極めて困難な状態に陥りました。タイ陸軍は、この事故により、戦車の車長、砲手、操縦手の3名の乗員が負傷したことを確認しました。負傷の程度に関する詳細な情報は公式には明らかにされていませんが、一部の報道では重傷者が含まれている可能性が指摘されており、事態の深刻さがうかがえます。
軍は現時点での発表として、「破裂の直接的な原因はまだ特定できていない」としており、徹底した技術分析を継続しています。事故原因として検討されている主要な可能性は4つです。
- 製造時の問題: 砲身製造における材料欠陥や製造品質の基準未達。
- 疲労破壊: 国境紛争激化以降の継続的な稼働と激しい砲撃による金属疲労。
- 弾薬の不具合: 使用された砲弾自体の欠陥や装填ミスなどの問題。
- 過度の運用負荷: 設計上の限界を超えるような集中的な運用や負荷のかけ方。
特に、当該戦車がカンボジアとの国境紛争が激化して以降、継続的に前線で稼働し、長期間にわたり激しい砲撃を繰り返していた事実が、今回の事件の一因となった可能性が最も有力な指摘の一つとされています。
VT-4戦車の国際的信頼性への影響
VT-4戦車は、中国のNORINCO(中国北方工業公司)が輸出市場向けに開発した最新鋭の主力戦車です。パキスタンと共同開発した90-II式戦車(VT-1、パキスタン名「アル・ハリド」)の発展型であり、中国人民解放軍の主力戦車である99式戦車をベースに設計されています。VT-4は、インド軍の主力戦車T-90に対抗するために開発された経緯から、T-90を凌駕する性能を持つと喧伝されており、機動性、防御力、火力のシステムは他国の第三世代主力戦車に匹敵するとされています。
- 火力: 改良された125mm滑腔砲は、対戦車ミサイルを含む多様な砲弾を発射可能で、徹甲弾を使用した場合、2,780mの距離で600mm厚の鋼鉄装甲を貫通する高い能力を持ちます。
- 防御力: 最新型の複合装甲と爆発反応装甲を採用しており、西側諸国の第3世代戦車と遜色のない防御力を有すると評価されています。
- 価格競争力: 価格は500万ドル前後とされ、西側諸国製の同等クラスの戦車と比較して破格であり、T-90戦車の価格帯とも大きな差がないことから、近年、ウクライナ戦争で戦車供給が停滞するロシア製に代わる有力な選択肢として国際的に注目を集めていました。
しかしながら、VT-4戦車は昨年行われた珠海航空ショーでのデモンストレーションで傾斜を登り切れずに停止するという失態を起こしており、今回の砲身破裂事故が、仮に車体本体や製造品質の構造的な問題に起因するものであれば、VT-4戦車の国際的な信頼と輸出実績に甚大な打撃を与える可能性が懸念されています。
タイ陸軍のVT-4導入と実戦投入の背景
タイ陸軍は、アメリカ製のM48やM60といった旧式化した戦車の更新を目的として、2017年以降にVT-4の調達を順次進め、現在までに総数60両が配備されているとされています。今回のタイ・カンボジア国境衝突において、VT-4戦車が初めて実戦環境に投入されたことが確認されました。
現在の紛争は、7月に始まった武力衝突が再び激化したもので、軍事境界線付近では、砲撃と空爆が断続的に繰り返される激しい状況が続いています。両国軍は重火器を交えた衝突を継続しており、これに伴い戦車部隊も前線で長時間にわたる火力投入を強いられています。今回の戦闘では、VT-4の他にも、タイが2011年にウクライナから2億ドルで購入した49両のウクライナ製T-84 Oplot-T戦車の投入も今回、初めて確認されており、最前線では異なる出自を持つ主力戦車が激しい戦闘を繰り広げている状況です。
タイ陸軍は未だ180両のM60、100両のM48戦車を抱えています。VT-4損傷の原因、他の戦車の活躍次第で今後のタイ陸軍の主力戦車調達の方針に影響が出てくるかもしれません。