
リビア東部における軍事パレードにおいて、多数の新型ロシア製戦闘車両が公開された。この事態は、ロシア国内の一部において反発および懸念を招いた。ウクライナ前線では装甲車両が不足しており、ロシア兵は非装甲車両の使用を余儀なくされ、損害が増加している状況だからだ。
報道によれば、2025年5月にリビア東部のベンガジにて実施された軍事パレードにおいて、新たに供与されたロシア製の軍事装備が多数公開された。パレードの映像には、BM-30 スメルチ 300mm多連装ロケットシステム、スパルタク及びティグルモデルを含む最新鋭の装甲車両群、並びに2023年に初公開された希少なロシア製水陸両用装甲雪沼車両ZSGT-34039Bが確認された。加えて、改修されたソ連時代のT-72戦車及びT-62戦車、対ドローンケージを搭載したBMP-2車両、パンツィリ-S1及びパンツィリ-S1E防空システム、Tor-M2E地対空ミサイルシステムも展示された。ウクライナにおいて戦闘を継続しているロシア軍が車両不足に直面する中、リビアに対して貴重な軍事資源を供給していることに対し、国内外から非難と懸念の声が上がっている。
軍関係者と関係を有するロシアの軍事ブロガーらは、当該装備がハリファ・ハフタル元帥率いる反政府武装組織リビア国民軍(LNA)に引き渡された旨を指摘している。ハフタル元帥は2023年に交渉のためモスクワを訪問し、ウラジーミル・プーチン大統領と会談したと報じられており、これらの兵器は2023年から2024年にかけてリビアに納入されたと推測される。当時、ロシアはシリアのタルトゥース港からリビアへの軍事物資輸送を頻繁に行っていたとされ、2024年4月にはロシアの揚陸艦「アレクサンドル・オトラコフスキー」及び「イワン・グレン」がタルトゥース港にて確認されている。
ウクライナ侵攻開始以降、ロシア軍は戦車及び装甲車両の大規模な損失に直面している。侵攻前に配備されていた近代的な軍事兵器はほぼ失われ、損失に対して兵器生産が全く追いついていないため、数十年前に退役し、倉庫に保管されていた、或いは野ざらしになっていたソ連時代の旧式兵器に頼らざるを得ない状況に陥っている。ソ連時代の兵器を使用できるならばまだ良い方であり、部隊によってはそれさえも不足し、ラーダやニーヴァといったロシア製の民間用小型車両を戦場での移動に用いたり、装甲車両の代替としてオートバイを使用せざるを得ず、無防備であるため犠牲者が続出している。果てには物資輸送にロバや馬といった家畜も動員している状況である。これらの状況は、ロシア軍の装備不足が深刻であることを示している。そのような状況下において、前線の兵士に軍事車両が供給されず、遠く離れたリビアに輸出されていたとなれば、前線の司令官や兵士が憤慨するのは当然である。ロシア軍で必要とされる兵器や資源が国外に流出していることに対する不満が高まっている。
このような批判が来るの予期していたためか、ロシア当局はリビアへの兵器供給を一切公表していなかった。しかし今回、それが明るみに出たことでロシア国内では説明責任を問う声が出ている。また、リビアへの兵器供給は国連の武器禁輸措置に違反する可能性があり、国際社会からの非難や制裁の対象となるが、常任理事国であるロシアは国連決議を遵守する意思が到底なく、それは北朝鮮との関係を見れば明らかである。国連安保理は北朝鮮からの輸出入禁止、北朝鮮の核開発やミサイル開発に繋がる物品・技術の取引禁止、資産凍結、渡航禁止などの制裁を科しているが、ロシアは北朝鮮から弾薬を輸入し、兵の派兵を受け入れている。その見返りとして資源、軍事技術などを供与している。事実、北朝鮮は近年、目覚ましい速度で近代兵器の開発を進めている。
ただし、なぜこの状況でリビアに兵器を供給するのかという疑問が残る。リビアは2011年のカダフィ政権崩壊以降、内戦状態が継続しており、国内情勢は不安定である。ロシアはウクライナ戦争の影響で武器輸出が停滞し、インドやアルメニアに輸出予定であった兵器を接収し、ウクライナで使用するなど、国際的な信用は低下している。そのような状況下で、リビアにだけ兵器を納入するのか。ロシアには中期・長期的な「別の目的」があるとされる。リビアは地中海に面した戦略的要地であり、ヨーロッパ・北アフリカ・中東にまたがる「影響力の橋頭堡」として利用可能であり、NATOの裏庭に位置する。ロシアはリビアをアフリカにおける「欧米の影響力排除」と「軍事的な足場確保」の拠点とすることを目指しているとされる。また、石油や天然ガスなど豊富な資源も有しており、武器供与を通じて経済的な「取引」や「軍事基地化」を目的としていると考えられる。同様に、地中海の要衝であったシリアのタルトゥース海軍基地が、盟友アサド政権の崩壊に伴い、先行きが不透明な中、リビアの戦略的価値は高まっている。
今回の批判についても、ロシア当局は速やかに鎮圧し、国内で報道されることはないだろう。