陸軍が開発した新型装甲戦闘車両「M10ブッカー(M10 Booker)」が、当初の目的や運用環境に適合せず、用途通りには使用できない状況にある事が分かった。この事例は、陸軍の調達プロセスにおける問題点を浮き彫りにしている。
The Army made a tank it doesn’t need and can’t use. Now it’s figuring out what to do with it.
Defense Oneの報道によれば、昨年、米陸軍第101空挺師団が歩兵部隊向けに特別に設計された装甲戦闘車両であるM10ブッカーの最初の配備に備え、試験運用を行っていたとき、参謀計画担当者はあることに気づいた。フォート・キャンベル陸軍基地にある11の橋のうち8つが重みで崩壊するかもしれないということだ。M10ブッカーの重量は38~42トンだ。米陸軍の主力戦車M1A2エイブラムスの重量がゆうに60トンを超える。エイブラムスと比較すれば、とても軽いのだが、M10ブッカーは戦車ではなく、主に空挺師団に配備され、空輸・空中投下可能で機動力を駆使する装甲戦闘車として開発されたという点だ。
空輸・空中投下できない
M10ブッカーは、陸軍の要求に応じて開発された新型戦闘車両である。歩兵旅団戦闘団に対し、機動的な防御力と直接射撃能力を付与し、敵の軽装甲車両、強化陣地、歩兵に対して、効果的かつ持続的な長距離射撃を可能にする。現代戦における柔軟性と軽量化の要求に応え、高い機動性と火力を両立させ、C-17やC-130による空輸・空中投下が可能であり、迅速な前線投入を目的として開発された。主砲として105mm砲を搭載し、外見は「軽戦車」に近いが、米陸軍はこれを戦車とは定義せず、装甲戦闘車両として分類している。
しかし、M10ブッカーは装甲戦闘車としては最大42トンと重く、軽量化とコンセプトの中途半端さが指摘されている。米陸軍の主力歩兵戦闘車のM2ブラッドレーは30.5トン、ストライカー装甲車は20トン以下である一方、ブッカーと同様のコンセプトを持つロシア軍のBMD-4は14トンである。空輸・空中投下を目的としていたはずのブッカーは、C-130輸送機での空輸が不可能という事が分かっており、2両の搭載を計画していたC-17輸送機では1両しか搭載できない。しかも、40トンを超える重量のため空中投下も不可能で空輸のみとなる。C-17はエイブラムス戦車1両を空輸可能である。また、この重量は渡れる橋梁や地形を限定し、機動性の低さも明らかになっている。
M10ブッカーは、火力・防護力でエイブラムス戦車に大きく劣り、戦闘持続力も低い。歩兵戦闘車ほどの輸送能力も持たないため、結果、「中途半端な装甲車両」と指摘されている。
C-130での輸送・空中投下がプロジェクト初期の2013年に不可能と判明し、2015年にはC-17での空輸を目標としていたことが報じられている。陸軍の最高技術責任者アレックス・ミラー氏は「空中投下能力がなくなると車両はもはや歩兵部隊を支援するために設計されておらず、単なるもう一つの主力戦車になるため、部隊の機動性が大幅に低下する。これは、要件策定プロセスがあまりにも大きな惰性を生み出し、陸軍が自らのやり方から抜け出せず、ただひたすらに進み続けたという話です。」と述べている。
2024年4月に最初の車両が陸軍に納入されたM10ブッカーは、米陸軍にとって20年ぶりの新型戦闘車両であり、2025年夏頃には第82空挺師団に最初の運用中隊が誕生する予定である。当初は月産3両の低レートで96両が発注され、2027年にフル生産を開始、最終的に504両が生産される計画だが、今回の指摘により、計画中止の可能性も指摘されている。
M10 Booker
GDLS社が開発したGriffin II(グリフィン2)がベースの戦闘車両で、主砲には既存の戦車兵が使い慣れたM1A2エイブラムスSEPV3戦車をベースにしたXM35 105mm砲を搭載、CITV (車長用独立熱線映像装置)を備えている。ハッチ部分には12.7mm重機関銃が1基搭載。1両あたりの価格は1,290万ドルとされる。搭乗員は運転手、砲手、戦車長、そして装填手の4人。このような戦闘車両の導入は、1994年に退役したM551シェリダン空挺戦車以来となる。