中東のアラブ首長国連邦(UAE)はかつてロシアから購入し、老朽化していたBMP-3歩兵戦闘車の近代化をロシアではなく、トルコ企業に依頼した。UAEは今のロシアでは対応できないと見限った形だ。
トルコの防衛企業大手のFNSS社は2月20日、UAEの防衛大手EDGEとそのグループ会社で陸上プラットフォームのメンテナンス、修理、オーバーホール サービス、および包括的なライフサイクル サポートを提供するAL TAIF社と協力してUAE軍が保有するBMP-3歩兵戦闘車の近代化に合意したと発表した。この合意に基づき、UAE軍のBMP-3歩兵戦闘車615両を強化・アップグレードし、今日の厳しい技術基準を満たすよう改修する。この近代化は、BMP-3の機械、電気、電子システムを改善し、最先端の機能を装備して性能と作戦即応性を向上させることを目的としている。
この契約について、AL TAIF社のラシッド・アル・カビ氏は次のように述べた。「FNSSの車両近代化に関する豊富な専門知識と当社のMRO(保守・修理・稼働)の実績を組み合わせることで、先進技術を統合し、UAE軍の装甲車両の寿命と有効性を延ばし、最終的には任務遂行能力とパフォーマンスを向上させることを目指しています。この協力は、アル・タイフの防衛ソリューションにおける革新と卓越性への献身を強調するものであり、UAE軍が変化する作戦上の要求を満たすために市場最高のシステムを装備することを保証します。」
この合意は今年2月にアブダビで開催されたIDEX-2025展示会で締結され、現段階では覚書のみで正式な契約にはまだなっていないが、注目すべきはBMP-3がロシア製でロシアから購入していながら、近代化プロジェクトに現状ロシア企業が1社も参加していないことだ。このことからUAEがロシアを見限ったと言われている。
BMP歩兵戦闘車
BMPは強力な火力に機動力と歩兵輸送力を兼ね備えたIFV(歩兵戦闘車)になり、BMP-3はBMP歩兵戦闘車シリーズの最も新しいモデルだ。開発製造したのは長年BMPシリーズを開発製造してきたロシアのKurganmashzavod(クルガン機械工場)。BMPIFV(歩兵戦闘車)の歴史は古く、1960年代から製造されており、1970年代から数多くの戦闘に参加している。1980年にはBMP-2、1987年には100mm低圧砲に、30mm機関砲と7.62mm機関銃を同軸で装備したBMP-3が登場した。しかし、その後、まもなくしてソ連は崩壊。外貨を欲するロシアはまだ新しかったBMP-3を積極的に輸出。UAEはこの新しい設計の歩兵戦闘車に目をつけ、1990年代初頭に契約、600両以上を調達。UAEに輸出されたBMP-3はUAE特有の気候および運用要件に合わせて改良され、過酷な高温・乾燥、砂漠という環境でも問題なく稼働、評価を高め、クェートも100両以上を調達している。
BMP-3の近代化実績があるロシア
現在もBMP-3の生産は続いており、ウクライナと戦争中であるロシアで唯一、量産されている歩兵戦闘車がBMP-3だ。基礎設計は1980年代と古いが、2005年には馬力と装甲が追加されたBMP-3Mが登場。UAEは2011年にロシアと7,400 万ドル相当の契約を結び、BMP-3Mにアップグレードしている。その後もBMP-3のアップグレードは続き、2020年8月には近代化モデルのBMP-3Mマヌルが登場している。マヌルには660馬力のマルチ燃料エンジンUTD-32Tが搭載され、舗装道路で最高70km/h、オフロードで55km/hの速度を実現。 車体を監視するセンサーを搭載し、ドライバーに車体の状態をアドバイスする情報管理システム機能を擁しメンテナンス性が向上している。武装は30mm2A42機関砲、PKTM機関銃と、4発の対戦車ミサイル「コルネット」 を装備。30mm2A42機関砲は最大4,000mの距離で軽装甲車に損害を与え、コルネットは8km離れた戦車に損害を与え、その貫通力は1400mmだ。火器管制には無人戦闘モジュールに組み込まれており、異なる範囲のターゲットを検索、2つのターゲットを同時にロック、射撃することができる。ターゲットの自動追跡と70度の仰角を組み合わせることで、低速の空中ターゲットにも対応できる。装甲も強化され、メーカーはBMP-3Mマヌルを米軍のM2ブラッドレー歩兵戦闘 車よりも安価で攻撃力、その他性能が優れていると謡っている。しかし、今回、UAEはマヌルへのアップグレードを選択しなかった。
なぜ、ロシアにアップグレードを依頼しなかったのか、その理由は明かされていない。また、トルコのFNSSによる近代化がどういった物なのかも現時点では不明だが、FNSS社が開発するオリジナル砲塔を搭載、エンジンを換装、装甲も強化されるとされ、側がBMP-3なだけで中身は別ものになると推察されている。FNSSによるBMP-3の近代化が上手くいけば、他のBMP-3採用国もFNSSに依頼するかもしれない。ロシア製で世界的に売れているMi-17汎用ヘリもウクライナと協力してトルコで運用・保守が行われている。