
ウクライナ軍がアメリカ製の新型短距離防空システム「V2X Tempest(テンペスト)」を実戦運用し、搭載されたAGM-114L Longbow Hellfire(ロングボウ・ヘルファイア)ミサイルを発射してロシア軍の無人機を撃墜したとみられる映像・報告が複数の現地メディアや分析で確認され、国際的な注目を集めている。映像は2026年1月1日にウクライナ空軍中央司令部が公開した新年向け映像に含まれたもので、暗闇の中で小型車両からミサイルが発射され、空中目標に命中する様子が映っている。専門家らはこの車両を米国の防衛企業V2Xが開発したTempest防空システムと断定している。
V2X Tempest

Tempestはアメリカの防衛企業V2Xが開発した、高機動性を特徴とする短距離防空ミサイルシステムだ。4×4の軽量オフロード車両(商用バギーをベースとした車両)をプラットフォームに、双連装のHellfireミサイル発射機と小型の対空レーダー/センサーを搭載する構造となっている。システム全体は軽量で機動性に優れ、電波/光学センサーで敵無人機や低空飛行目標を探知し、短時間で射撃・移動する「shoot-and-scoot(撃ってすぐ撤退)」戦術が取り得る設計としている。
この種の機動防空システムは、従来の大型防空レーダーや中長距離SAMと比較して展開が容易で、特にドローン(UAV)やヘリコプターなどの低高度目標に対する即応能力を重視したものだ。報道では、Tempestに搭載されたレーダーはミリ波帯で動作し、Hellfireミサイルの誘導と連動して目標を追尾する機能があると見られている。
AGM-114L Longbow Hellfire

AGM-114 Hellfireは本来対戦車・対地攻撃用に開発されたレーザー誘導ミサイルであるが、その中にはAGM-114L Longbow Hellfireという、ミリ波レーダーシーカーを搭載した「fire-and-forget(発射後自動追尾)」型が存在する。このバージョンは、レーザー誘導ではなく搭載されたシーカーのレーダー誘導で目標を追尾でき、発射後に撃ち手が誘導情報を与え続ける必要がなく、悪天候や視界不良な状況でも高い制度を有するのが大きな特徴だ。映像や写真に見えるTempestは、Hellfire Longbowを装着した双連ミサイルランチャーを搭載しており、これを用いてドローン類を攻撃していると分析されている。
Hellfire Longbowの有効射程は一般に約8〜11kmとされ、9kg弱の戦闘用弾頭を持つ。この弾頭は比較的小型無人機の撃墜に十分な破壊力を持っているとされるが、元来対地目標用として設計されているため、専用の地対空ミサイルと比べると機動性や追尾性能では制約があるとの指摘もある。
ウクライナで確認されたTempest
As predicted when the photos appeared a few days ago here's an official closer look at the Tempest SAM system in #Ukraine. The crew claims 21 Shaheds downed with the Hellfire AGM-114Ls. #UkraineWar pic.twitter.com/R1sm6MocxM
— Matthew Moss | The Armourer's Bench (@historicfirearm) January 13, 2026
複数の報道や軍関係者の証言によると、Tempestはすでにウクライナの前線周辺や後方で運用され、ロシア製のShahed(シャヘド)系無人爆撃機を中心に撃墜に成功したという。1月中旬現在、ある部隊のオペレーターは「21機以上のShahedを撃墜した」と語っている。
ウクライナ軍が運用するV2X Tempest SAM(地対空ミサイル)システムがAGM-114L Longbow… pic.twitter.com/I3F2HRfeb5
— ミリレポ (@sabatech_pr) January 12, 2026
ウクライナ空軍中央司令部が公開した映像からは、夜間にTempestが発射したミサイルが空中で目標を捉え、爆発する様子が確認でき、少なくとも一連の稼働が実戦下で行われていることが裏付けられている。ウクライナもアメリカもTempestの供与を公式に発表しておらず、名前自体も伏せているが、オープンソースの分析グループがこれをTempestと断定している。Tempestの評価として、専門家や軍事アナリストは次のような強みと限界を指摘している。
強み
高い機動性:軽量車両により短時間で展開・撤収が可能。
対ドローン能力:Shahedのように比較的低速で飛行するUAVに対し、Hellfire Longbowは有効な迎撃手段となり得る。
即応性:他の大型防空システムが対応しにくい局面での補完役。
限界
防御力の脆弱性:装甲は非常に薄いため、砲撃・小型無人機攻撃を受けた場合、生存性は低く、破片でも乗員は致命的な怪我を負う可能性がある。
弾薬数の少なさ:搭載ミサイルは通常2発だけで、発射後は補給が必要になる。
コスト効率:Hellfireミサイルは10万ドル以上と高価であり、低コストUAVを多数投入する敵に対しては費用対効果の観点で議論がある。
こうした特徴は、Tempestが前線最先端での恒常的な防空装備というよりは、重要拠点や後方の補完防空として使われるべきだとの評価につながっている。
公式なウクライナ政府やアメリカ政府からの供与や運用についての声明は出されていないものの、複数の報道と映像分析から、少数ながらウクライナ側に渡り実戦投入されている可能性が高い。米国や同盟国はこれまでにPatriot、NASAMS、IRIS-Tなどの高度な防空システムをウクライナに供与してきたが、Tempestのような機動性重視の短距離防空装備は比較的新たなカテゴリーとして位置づけられる。今後、戦場のニーズに応じて追加供与や量産・配備の拡大が議論される可能性もある。
ウクライナ軍によるTempest SAMの実戦使用は、地上部隊の防空能力に新しい選択肢を加える出来事として注目される。ドローン戦が激化する現在の戦場では、機動性と即応性を重視した防空システムが重要となっており、Tempestはその一端を担う存在となりつつある。今後の運用実績と戦術的評価が、より明らかになることが期待される。