世界で最強の自走ロケットランチャーはどれか?と言われて、真っ先に思い浮かぶのがアラブ首長国連邦(UAE)が開発し、UAE軍が配備するMultiple Cradle Launcher(マルチプル・クレードルランチャー)こと「MCL」だ。なにしろMCLは240発のロケット弾を搭載し、それを一斉発射する圧倒的火力を有す。これを超える火力を持つロケットランチャーは他になく、他の追随を許さない。
多連装ロケットランチャーを4基を搭載した車両
MCLは大型の軍用輸送車と多連装ロケットランチャーを搭載した10輪のコンテナ車両で構成されている。コンテナには4基の多連装ロケットランチャーが搭載、各ロケットランチャーは20発のコンテナ3つの計60発のロケットチューブで構成されており、MCLは計240発のロケット弾を装填できる。ロケットランチャーはトルコのアセルサン社の122mm口径のTR‐122 / TRB-122拡張射程ロケット砲をベースにしており、その最大射程は37kmにも及ぶ。TR-122の弾頭の爆発半径は最大20mで、TRB-122はその倍とロケット弾の威力も強力。MCLは総重量4トンにも及ぶこのロケット弾を毎秒2発、2分以内に全弾発射でき、約4平方キロメートルの範囲を焼き尽くす。これは実に東京ドーム300個分の広さだ。4つあるランチャーはぞれぞれ別の標的を攻撃することもできる。
これらの照準発射は全て射撃管制システムによって自動化されており、乗員は外に出ることなく装甲で保護されたキャビンの中で全ての操作が可能だ。
数が少ないUAE軍のために開発されたロケットランチャー
MCLはトルコの軍需企業Roketsan(アセルセン)社の協力によってUAE軍の要望に応えるために開発された。UAEは湾岸諸国の石油産油国で裕福な国ではあるが人口は1000万人と小国だ。豊富なオイルマネーを元に国内の労働力は海外からの出稼ぎ労働者に頼っているが、国をまもる軍隊に外国人を採用するわけにはいかない。中東という不安定な地域にあることもあり、一定の軍事力の維持は不可欠だが、多くの国と同様に軍の人員は不足している。限られた人員を適切に配置するために作られたのが実はMCLになる。それまでUAE軍の多連装ロケットランチャーはソ連製で40発装填のBM-21 Gradを使用していた。MCLと同じ240発を運用するとなると6台のBM‐21が必要なり、その運用に必要な人員は30人なのだが、同じ火力のMCLの運用に必要なのは僅か3人、10分の1の人数で済むのだ。
ただ、この車体の大きさからも分かるように動きは鈍く、発見されやすい、反撃されてもすぐに退避することは難しいというデメリットがある。それでも、この圧倒的火力は隠れる場所が少ない砂漠という中東の地形では絶大な効力を持つ。