ウクライナのHIMARSはなぜ?一両も破壊されていないのか

ウクライナのHIMARSはなぜ?一両も破壊されていないのか
写真 ウクライナ国防省

2022年6月に初めてウクライナ軍での使用が確認された高機動ロケット砲システムM142 HIMARS。あれから1年が経過したが、未だ一両も破壊が確認されていない。ロシア国防省は再三破壊したと発表していたが、画像や動画といった証拠は一切なく、自爆ドローンが破壊する様子も公開されたが、ダミーだったことが分かっている。ウクライナ、ロシア両軍の損害を分析するオープンサイトOryxも未だ、HIMARSの破壊は確認できていない。

関連記事

ウクライナ軍は15日、イギリスから送られたM270多連装ロケットシステム(MLRS)を受領したと発表しました。M270はアメリカから提供されたM142 HIMARSと並び、高精度、長射程の精密ロケット兵器です。HIMARSは一足先[…]

M142 HIMARSとM270 MLRSの違い

脚が早い

高機動ロケット砲システム(High Mobility Artillery Rocket System)と謡っているように、HIMARSの特徴の一つが装輪式の機動性だ。装輪式なので、無限軌道と比べ、移動エリアの制限こそうけるものの整地で最大速度85km/hで移動できる。敵がロケット弾を検知、発射地点を特定する頃には既にHIMARSは遠く離れた場所におり、追跡するのは難しい。仮に捕捉できても脚が速いので、破壊するのも難しい。HIMARSはその脚とGPSによる精密攻撃のピンポイント攻撃を主としたヒット&アウェイが基本戦術になる。

発射スピードが速い

HIMARSが射撃地点に到着してから、ランチャーを発射角度に固定、目標のGPS座標を取得し、射撃地点を指定して、発射準備まで僅か30秒しかかからない。その後、発射、撤収までは1分もかからない。ウクライナ軍が使用するロケット弾M30/M31 GMLRSはマッハ2.5で飛行し、80km先の目標地点までの到達時間は94秒。弾着確認後に第二波攻撃を含めても2分ほどで陣地転換が可能だ。滞在時間が非常に短いので反撃前に撤収できる。HIMARSには6発のロケット弾が搭載できる。それに対し、牽引式のM777 155mm榴弾砲は陣地展開から撤収まで時間を擁し、砲弾は1発ずつ、手動で装填、脚も遅い。それもあってか、これまで60門が破壊されている。

射程が長い

HIMARSの特徴は最大90kmの射程でGPS誘導で精密誘導ができる点だ。長距離砲撃というと、西側から提供された155mm榴弾砲があるが、通常弾で30km前後、延伸弾で40kmと射程はHIMARSの半分ほど。30km前後の射程はロシア軍が保有する対砲兵レーダーの検出範囲になり、発射後20秒で発射地点がわりだされてしまう。実際、ノルウェーやイタリアから提供されたM109自走砲は29両、ポーランドから提供されたAHS Krabは20両、フランスから提供されたカエサルは3両、イギリスから提供されたAS90は2両、ドイツから提供されたPzh2000は1両と7月末時点で155mm自走砲だけで、50両以上が破壊されている。その点、HIMARSは対砲兵レーダーの大きく範囲外から攻撃できる。更に最大射程150kmのGLSDBを受け取ることも決定している。そして、HIMARSはその射程を活かし、対砲兵レーダーといった後方のレーダー施設を破壊している。

慎重に運用

上記のメリットを活かしながらもウクライナ軍は重要な兵器の損失を防ぐため、かなり慎重に運用している。運用場所が分かるような情報は明かさないのはもちろんのこと、速やかな陣地転換、運用時の防空、そして、保管場所も慎重だ。ウクライナ国防省はHIMARSを核攻撃にも耐えられるシェルターに保管していることを公表している。全ての車両というわけではないと思うが、HIMARSは任務外の時は強固な施設の中で守られている。

アメリカはウクライナに計38両のHIMARSの提供を約束。1月末時点までに少なくとも18両が納入されている。

ウクライナのHIMARSはなぜ?一両も破壊されていないのか
最新情報をチェックしよう!
>戦車の情報を中心に発信するワールドタンクニュース

戦車の情報を中心に発信するワールドタンクニュース

戦車、戦闘車、装甲車といった世界の軍の地上車両のニュース情報を発信します。

CTR IMG