イギリスからウクライナに供与されたチャレンジャー2戦車。あまり、活躍を見る機会はないが、雪解けの今の季節、どうやら供与前から懸念されていた事が起きているようだ。
イギリスのタブロイド紙「The Sun」はウクライナでイギリスから提供されているチャレンジャー2戦車部隊の取材を行った。その様子は映像でも公開された。記者はウクライナ軍のチャレンジャー2戦車の砲塔上部に乗り、走行しながら乗員にインタビューを行っていたが、インタビュー中、戦車は脚が止まってしまう。チャレンジャー2は肥沃なウクライナの黒土の泥に脚を取られたのだ。そして、泥に沈むチャレンジャー2のあわれもない姿も撮影されてしまう。映像を見る限り戦車の履帯は泥上の黒土に深く沈んでしまっている。記者はカメラに向かって「ウクライナにおけるチャレンジャー2の最大の問題は泥にはまり込んでしまうことだ」と説明した。ここの地形は柔らかく深く肥沃な黒土で構成されており、ウクライナ、ロシアの両軍にとって軍を進める上で大きな障害となっている。泥濘にはまったチャレンジャー2の状況はどんどん悪化、水位が上昇し始め、シャーシの上部にまで近づき、更に車体も沈んでいっているように見える。黒土の性質を考えると車両の救出は不可能と思われ、回収車両が来るまでこれ以上車体が沈まない事を願うだけだ。これがもし前線だったら、ロシア軍の格好の餌食になっていただろう。記者が乗っている事から分かるように、このチャレンジャー2は前線から離れた場所で訓練を行っていたものを取材したものだ。
ウクライナ国土の6割を占める黒土
ウクライナの黒土の6割は黒土になり、現地では「チェルノーゼム」と呼ばれている。土壌の養分が豊富な事で知られ、作物の栽培に非常に適した土地で、ここで小麦を栽培、ウクライナはいつしか「欧州のパンかご」と呼ばれるようになった。
ウクライナの黒土には最大15%の腐植質が含まれている。これが、土を黒くし、豊富な養分を蓄え、肥沃な大地にと育て、長年に渡って人々に恵みを与えてきたが、それが戦争となると重い軍用車両にデメリットを与える。黒土は有機物を多く含むため、保水力と保肥力に優れている。そのため大雨が降ったり、冬に積もった雪が解けると土壌に大量の水を抱え込み、土地が柔らかい泥に変わる。その上、通気性と水はけがよくないので、なかなか乾かない。しかも、粘土成分も豊富に含まれており、粘着性が強く、一般車両より走破性が高い軍用車でも、そこを走破するのは一筋縄ではいかない。更に重い軍用車が泥にハマって動けなくなると水が下方に非常にゆっくりと排出され、車両が水没する危険性もある。
第二次世界大戦中、モスクワに進撃するドイツ軍の機甲部隊はウクライナの黒土に脚をとられた事で、進撃が遅れ、補給も滞った事で、ソ連の反撃に合い、敗走したほど、この黒土は軍用車にとってはやっかいな代物だ。
西側製戦車は重い
今回、チャレンジャー2に起きた出来事は他の西側製戦車でも起きる懸念はウクライナへの供与が決まった頃から言われていた。それはソ連製、ロシア製戦車に比べて、西側製戦車の重量が重いためだ。ウクライナ軍の現在の主力戦車であるソ連製のT-64やT-72、T-80戦車の重量は大抵40トン代。装甲などを追加してもせいぜい40トン後半までに収まる。それに対し、ウクライナに供与されている西側戦車の重量はイギリスのチャレンジャー2、ドイツのレオパルト2A6、アメリカのM1A1エイブラムスともに60トン以上とソ連/ロシア製戦車より20トン近い開きがある。主力戦車の中でも軽量とされるソ連/ロシア製戦車でも、この黒土の泥にハマることはあり、それよりも20tも重ければ、ハマるリスクはより高まる。その上、ウクライナには西側戦車の重量に耐えられる橋がほとんどなく、西側から供与された渡河装置や架橋戦車、そして、今回のように泥にハマった際の回収車両の随伴が必須であり、配備の自由度が低い。最近、チャンレンジャー2やレオパルト2の活躍を聞かないのもそれが理由かもしれない。
ただ、あと2か月ほどで春の雪解けは終わり、土地は乾燥してくる。そうなれば、今回のように泥に脚をとられる懸念は少なくなってくる。西側製戦車の活躍は5月まで待たなければならないかもしれない。