米国は、エジプト軍向けに555両のM1A1エイブラムス戦車を近代化する46億9000万ドル規模の大規模プロジェクトを承認した。緊迫化する中東情勢において、米国はエジプトとの戦略的パートナーシップを強化したい狙いがあるとみられる。エジプトは米国以外の唯一のエイブラムス戦車生産国であり、改修はエジプトで行われる。
米国務省は12月20日、推定費用46億9,000万ドルでエジプト陸軍のエイブラムス戦車の改修、サポート、装備および関連装備の対外軍事販売を承認する決定を下した事を発表。エジプト陸軍が保有するM1A1エイブラムス戦車555両をM1A1SA仕様に改修およびアップグレードする。エイブラムスの最新バージョンはM1A2になるが、今回、アップグレードされるM1A1SAはその一世代前のバージョンになり、SAとは「Situational Awareness:状況認識型」を意味し、車長用の照準器と暗視装置が装備されており、視界が拡張されている。これは現在、米国からウクライナ軍に供与されているものと同じモデルだ。
そのため今回の合意では555個のAN/VAS-5Bドライバー ビジョン エンハンサー (DVE-A) キットと熱画像システム (TIS) 砲手用照準器が供与される。その他、M250スモークグレネードランチャー、AGT-1500 戦車エンジン、X-1100戦車トランスミッション、スペアパーツ、サポート機器、補給所レベルのサポート、政府支給機器 (GFE)、修理部品、修理および返却プログラム、米国政府および請負業者のエンジニアリング、技術、およびロジスティクス サポート サービス、およびその他の関連ロジスティクスおよびプログラム サポート要素が含まれる。
米国以外の唯一のエイブラムス戦車生産国エジプト
「今回のエジプト陸軍のM1A1エイブラムス戦車の大規模改修は、中東で引き続き重要な戦略的パートナーであり、主要な非NATO同盟国の安全保障の向上に役立ち、米国の外交政策と国家安全保障を支援するものとなる。」と米国務省は述べており、米国が引き続きエジプトをこの地域における重要な戦略的同盟国とみなしていることを明確に示している。米国はイスラエル、パレスチナと国境を接するエジプトに対し、2023年10月にガザで戦争が勃発して以降、ますます緊密に協力している。
実はエジプトは米国以外でM1A1エイブラムスを生産している世界で唯一の国であり、米国に次ぐ世界2位のエイブラムス運用国だ。米国政府とエジプト政府による合弁事業「M1A1共同生産プログラム」のもと、エジプトの首都カイロ近郊にエイブラムス生産・修理工場を建設しており、1988年からエジプト陸軍向けのM1A1エイブラムス主力戦車の部品を生産し、戦車を組み立てている。生産数は述べ1130両にのぼり、これらは全てエジプト陸軍に納入されている。エジプトのエイブラムス戦車生産プログラムは、調達費用を節約すると同時に、自国の防衛産業基盤を発展させる方法として進められた。また、多くの雇用と経済を生み出し、国防総省やその他の米国の安全保障パートナーにとって希少なM1A1部品の全体的な単価、リソースの負荷を下げることに貢献している。米国では現状、エイブラムス戦車の新規生産は行っておらず、改修を行える工場も一つしかなく、現在、リソースは逼迫している。今回の近代化では追加の戦車は生産されず、既存の車両をアップグレードする。エジプト軍が保有するM1A1エイブラムスの数は1130両なので、半数を近代化することになる。スケジュールは明かされていない。
今回の近代化は、エジプト陸軍の主力戦車の近代化に貢献し、現在および将来の脅威に対処する能力を強化する。また、米国およびその他の同盟国との相互運用性をさらに強化しながら、軍事力を更新、近代化するというエジプトの目標に貢献する。改修により、攻撃力はもちろん、エンジンとトランスミッションも更新される事から機動力が向上。M250スモークグレネードランチャーにより、市街地戦、対戦車ミサイルに対する防護力が向上する。今回の近代化改修が上手くいけば、M1A2へのグレードアップへの道も開け、今後数十年に渡り、高いレベルでエジプト陸軍は主力戦車部隊の能力を維持できる。