未だ続くイスラエル軍と武装組織ハマスによる戦闘。圧倒的戦力差でハマス側の被害は甚大だが、イスラエル軍も一日で24人の死者を出すなど、決して損害は少なくない。そんなイスラエル軍を苦しめているのが、ハマスが使用する対戦車ロケット弾の「Yasin 105」だ。
パレスチナ・ガザ地区への地上侵攻を続けるイスラエル軍。圧倒的な火力を前に既にパレスチナ側の死者は2万6000人を超えているとされ、29日にはイスラエルのガラント国防相が「ハマスのテロリストの少なくとも4分の1がすでに死亡し、4分の1が負傷している」と述べ、ハマスの戦闘員の約半数が死傷したと述べた。しかし、ハマスの殲滅にはまだ何カ月もかかると述べている。イスラエル軍の死傷者も増えており、イスラエル兵の死者は200人を超えている。23日には24人が戦死するなど、一日の被害では最多の数を更新していた。この数多くの戦死を招いたのがハマスのロケット弾による攻撃だ。ハマスはイスラエル軍の重装甲の車両に対抗すべく、今回の戦争で新型の対戦車ロケット弾「Yasin 105」を投入、それが戦果を挙げている。
Yasin 105
ハマスがイスラエルへの攻撃を開始した昨年の10月7日から一週間後の14日、ハマスの軍事部門イズ・アドディン・アル・カッサム旅団は、新型のタンデム式戦車ロケット弾「ヤシン 105」を初めて公開した。ヤシン 105は、RPG-7ロケットランチャーで使用するためのタンデム式対戦車ロケット弾の一種であり、無誘導、携行式肩発射型対戦車ロケット兵器になる。
タンデム、つまり、成型炸薬を二段構えにしたヤシン 105はイスラエル軍の主力戦車メルカバに搭載されている爆発性反応装甲 (ERA) と複合装甲を貫通するように設計されている。まず一段目の小型弾頭がERAを無効化し、第二段の105mm弾頭が戦車本体のメイン装甲に衝突する。ハマス側の発表ではメイン弾頭の105mm弾の装甲貫通力は均質圧延装甲(RHA)で600mm、反応装甲なしでは750mmのRHAを貫通する威力があるとされる。RPGのタンデム式対戦車ロケット弾というとロシアのPG-7VRタンデムHEAT弾が有名だが、PG-7VRの装甲貫通力はRHA換算で600mmなので、威力はほぼ同等といってもいいかもしれない。有効射程は最大500m、殺傷有効距離は150m、速度は毎秒約300mである。
ハマスはイスラエル軍のメルカバ戦車をヤシン 105で攻撃する動画を複数出しており、実際にメルカバの強固な装甲が貫通されているのは確認されており、乗員保護能力が高いことで有名なメルカバでも死者が出ているとの情報もある。少なくともメルカバを運用不能、長期間の修理送るにする威力があることは確認されている。実際、イスラエル軍は地上侵攻の初期段階で100両近い戦闘車両を失っており、メルカバ戦車だけでもこれまで50両が破壊ないしは損傷したという情報もある。
イスラエル軍にとって厄介なのが、ガザでの戦闘のメインが市街地戦であり、ハマス戦闘員の接敵を許し、メルカバMk4以降に搭載されているアクティブ保護システム「トロフィー」の使用もままならいことだ。また、彼らはメルカバの弱点を熟知しており、装甲が弱いところをピンポイントで狙っている。
そして、ハマスはこのヤシン 105を外部からの支援ではなく、生産を内製化している。もちろん物資は外部に頼る必要があるが、材料輸入は兵器輸入に比べればハードルが低い。また、コストも安く、砲弾一発当たりの価格は200ドルとされている。それに対し、メルカバMk4戦車の価格は約600万ドルだ。
イスラエルとハマス間の戦闘は他の中東諸国にも広がっており、戦闘の終息はまだ見通せない状況だ。