イタリア、約82億ユーロの新型戦車計画が調達段階へ KF51パンターを基に独自開発するNMBT

©Rheinmetall AG

イタリア陸軍が進めてきたPanther KF-51新型主力戦車(MBT)計画が、いよいよ調達段階に入りました。伊国防省は2026年9月21日、新型主力戦車「NMBT(New Main Battle Tank)」とその派生車両を対象に、総額51億4320万ユーロ規模(日本円換算で約9000億円)の調達手続きを開始しました。イタリア国家腐敗防止機関(ANAC)の調達データベースに掲載された情報から明らかになったもので、実施主体はドイツのRheinmetall(ラインメタル)とイタリアのLeonardo(レオナルド)が設立した合弁会社「Leonardo Rheinmetall Military Vehicles(LRMV)」です。

今回の契約は、陸軍装甲車両刷新計画全体の中核をなす「第一段階」にあたります。計画全体は2025年から2038年までの14年計画として構想されており、総費用は約82億4600万ユーロ、うち約54億ユーロがすでに財源確保済みとされてきました。今回の51億ユーロ規模の調達は、この既確保分にほぼ相当する形で正式な契約手続きに移った格好です。

「Panther KF51」をそのまま導入するわけではない

注意したいのは、イタリアがRheinmetallの「Panther KF51」をそのまま購入するわけではないという点です。NMBTはKF51の設計思想や技術をベースとしながら、イタリア陸軍の要求に合わせて再設計される、事実上の新型戦車です。Rheinmetallが2022年に発表したPanther KF51は、130mm滑腔砲、完全自動装填装置、アクティブ防護システムなどを特徴とする次世代MBTです。一方、2026年6月にパリで開催されたEurosatory 2026で、LRMVがイタリア向けNMBTのコンセプト・デモンストレーターを公開しました。この車両は外観こそKF51との共通点が多いものの、実際にはLeopard 2A4の車体に新設計の砲塔を組み合わせたデモンストレーターであり、量産型ではRheinmetallのARV3系シャーシをベースにイタリア独自のパワートレイン(ハイブリッド方式が有力視されます)を組み込んだ新しい車体を採用する計画とされています。機動性や防護力の向上が重視されており、地雷やIEDに対する車体底部の防護強化も検討課題です。

つまりNMBTは「KF51のイタリア版」というより、KF51で培われた技術を取り込みつつイタリア独自の要求に沿って発展させる新型MBTと捉えた方が実態に近いと言えます。

主砲は当初120mm、将来的に130mmも視野

武装面も興味深い点です。Panther KF51最大の特徴は130mm砲ですが、現在公開されているNMBTのコンセプトでは、レオナルド製の120mm滑腔砲(L55A1)を採用する方向です。自動装填装置により20発の即応弾を搭載し、レオナルドの誘導砲弾「VULCANO 120」による長射程の間接射撃にも対応します。

砲塔上には12.7mm同軸機関銃に加え、30mm機関砲を搭載した遠隔操作式銃塔(RCWS)「Blaze 30」を設置する構想も示されています。この30mm機関砲は近接信管弾を使用でき、通常の地上目標だけでなく小型無人機への対処も想定したものです。さらに車体にはクアッドローター型の小型無人機を搭載し、遮蔽物越しの状況把握やVULCANO弾の目標指示に使う構想もあります。防護面では複合装甲に加え、ソフトキルの能動防護システム「MUSS」とハードキルの「StrikeShield」を組み合わせます。従来の「戦車同士が主砲を撃ち合う」というMBT像から、無人機やネットワークを組み合わせた戦闘システムへと役割を広げるものと言えます。

将来的には130mm砲への換装も選択肢として残されており、Rheinmetallが開発する130mm砲を後から組み込める設計にしておけば、将来的な火力強化にも対応可能です。車両諸元としては、戦闘重量は約69.5トン、最高速度は約70km/h、航続距離は約450km、乗員は3名(予備の第4座席あり)という構想値が伝えられています。

132両の新型MBTと140両の派生車両

イタリアが計画しているNMBTは最大132両です。これに加え、回収・支援・架橋などを担う派生型を140両整備する構想です。今回ANACに登録された51億ユーロの調達案件は、まさにこの新型戦車と派生車両を対象としたものとみられます。ただし公開された調達記録には、具体的な納入スケジュールや契約相手企業名までは記載されていません。Leonardoの経営陣は今年9月、合弁会社と陸軍との最初の契約規模を「30億ユーロ台半ば」程度と見込んでいましたが、蓋を開けてみると51億ユーロ規模となり、当初想定よりやや大型の契約となりました。最初の試作車の納入は2029〜2030年頃になる見通しで、LeonardoのチンゴラーニCEOによれば当初計画より1〜2年遅れているとのことです。プログラム全体の完了は2038年が目標とされています。

Arieteから次世代装甲戦闘システムへ

mod italy

イタリアが新型戦車を必要とする背景には、1990年代から運用してきたC1 Arieteの老朽化があります。2023年時点で約200両のC1アリエテのうち、実際に稼働していたのは約50両にとどまっていたとされています。イタリアはすでに近代化改修にも着手しており、エンジン出力を約2割増強するなどした「Ariete C2」の1号車を2025年7月に引き渡し済みです。90両を対象にこの改修を進め、当面の戦力維持を図っています。もっともこれはあくまで既存戦車の延命であり、長期的には新型MBTへの更新が不可欠となります。

そこでNMBTと並行して進んでいるのが、Rheinmetallの「Lynx KF41」をベースに歩兵戦闘車や偵察型、対戦車型、対空型など16種類の派生車両を約1050両整備する「A2CS(Army Armoured Combat System)」です。こちらはNMBTより一足先に動き出しており、2026年1月にはLynx KF41の最初の4両がイタリア陸軍に納入され、プログラムが正式始動しています。イタリアは戦車だけでなく、「NMBT+Lynx」という組み合わせで陸軍の重装備全体を世代交代させようとしています。

LeonardoとRheinmetallが組む意味

この計画のもう一つの重要な柱が、伊独の防衛産業協力です。LeonardoとRheinmetallは2024年7月にMoUに署名し、同年10月15日にLRMVの設立を正式発表しました。ドイツ当局の独占禁止審査などを経て、2025年に事業を本格始動させています。両社は50%ずつ出資し、本社をローマに、事業拠点をラ・スペツィアに置きます。開発・生産だけでなく最終組み立て、試験、納入、兵站支援などを含め、活動の60%をイタリア国内で実施する構想です。Leonardo自身の発表では、NMBTとA2CSを合わせたプログラム価値は230億ユーロを超え、今後15年間で最大500億ユーロ規模の輸出展開も視野に入れているとのことです。イタリアにとってこれは、単に外国製戦車を輸入するより大きな意味を持ちます。新型戦車の導入と同時に、国内の防衛産業基盤・技術・雇用を維持強化できるためです。Rheinmetallにとっても、イタリアを拠点に戦車・装甲車両を欧州市場へ展開する足がかりが広がります。

イタリアの新型MBT計画は、「構想」から「調達」へと段階を進めました。今後注目されるのは、最終的にどのような車体・砲塔・防護システムが採用されるのか、そして120mm砲から将来的に130mm砲へ移行するのかという点です。ウクライナ戦争によって戦車の生存性やドローン対処能力が大きく問われるようになった現在、イタリアのNMBTは、欧州が考える「次世代MBT」の一つの方向性を示す存在になりそうです。

イタリア、約82億ユーロの新型戦車計画が調達段階へ KF51パンターを基に独自開発するNMBT
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