ドイツの軍需企業でレオパルト2戦車の生産元であるラインメタル社がイギリスのかつての主力戦車であるチャレンジャー1戦車のウクライナへの提供を計画しているとドイツメディアが報じました。
報道によればラインメタル社は中東のヨルダン軍が保有しているイギリス製のチャレンジャー1戦車を購入し、ドイツで近代化改修を行い、ウクライナに送るといったものです。数は少なくとも2桁に上るとされます。第1次世界大戦の後にイギリスの委任統治下に入るなどイギリスと関係が深いヨルダンには2002年の政府間取引の一環として、イギリスから402両のチャレンジャー 1 戦車がヨルダンに売却され、ヨルダン陸軍の主力戦車として配備されます。その後、2020年9月にアラブ首長国連邦から100両のフランス製のルクレール戦車が寄贈されたことで、主力の座はルクレールと近代化改修されたM60A3パットンに譲り、チャレンジャー1のほとんどが予備役として保管状態にあります。つまり、ウクライナに数十両提供してもヨルダン軍の戦力に影響はなく、買い取ってもらえることで解体費用も浮くわけです。
チャレンジャー1戦車
チャレンジャー1戦車はその名の通り、現在のイギリス軍の主力戦車でウクライナに14両の提供が決定しているチャレンジャー2の前身モデルで、イギリス最初の第3世代戦車です。1970年代に当時の主力戦車であったチーフテンの後継として開発され、1983年にイギリス陸軍に就役します。
主砲はチャレンジャー2と同じ55口径120mmライフル砲で、NATO標準ではありません。自動装填装置はなく、装填手を含めた4人乗り、64発の砲弾を搭載します。副武装には同軸とハッチに対空用の7.62mm機関銃が搭載。 1,200馬力のディーゼルエンジンを搭載し、地上を最高速度56km/h、満タンで400kmを走行します。機動力に関してはチャレンジャー2とあまり遜色ありませんが、2と同様、第3世代戦車としては鈍足です。チョバムアーマーを採用する装甲に関してはチャレンジャー2と同様に非常に強固で、1991年の湾岸戦争ではイラク軍のT-55、T-72戦車の攻撃をほとんど弾き返します。戦闘では高度なGPSシステムと赤外線監視および砲撃システムによって、夜間や視界不良時でも精度の高い射撃を実現し、300両ものイラク軍戦車を破壊。この時、5100m先のT-55戦車を破壊しとされ、これは非公認ながら、戦車主砲での最長の破壊記録です。そして、この戦闘でのチャレンジャー1の損害は皆無でした。イギリス陸軍では2001年まで運用され、その間までに420両が生産。その大半である402両がヨルダンに売却されます。しかし、そのヨルダン軍でも2018年から退役が始まっています。
タミヤ 1/35 ミリタリーミニチュアシリーズ No.154 イギリス陸軍 主力戦車 デザートチャレンジャー プラモデル 35154
ラインメタルが公言した車両はこれまでほぼ実現している
ラインメタル社はロシアによるウクライナ侵攻が始まった当初からウクライナへの支援を積極的に表明しています。侵攻数日後にはゲパルト対空自走砲の提供を申し出ます。その後もPzh2000自走榴弾砲、レオパルト1戦車やマルダー歩兵戦闘車の提供も表明。提供を判断するのはドイツ政府であり、ラインメタル社に権限はありませんが、表明したこれらはその後、全て承認され、ウクライナに提供されています。レオパルト2戦車の提供するかしないかでNATO間、ドイツ国内で紛糾している際もラインメタル社が我先に「提供できる用意がある」と発表。そして、最終的に提供に至っています。ドイツのこれまでの戦闘車両の支援はラインメタル社があってのものであり、チャレンジャー1の支援もラインメタル社が言うのであれば実現される可能性は高いでしょう。イギリスの承認が必要かもしれませんが、これまでの経緯を考えればイギリスが断ることは無いでしょうし、積極的に協力するでしょう。しかし、古いチャレンジャー1を現代の戦場に適応させるためには近代化改修が必要であり、提供には数か月かかる見込みです。
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