
ウクライナ侵攻が長期化する中で、ロシアは戦車の消耗が激しく、特に最新鋭のT-90M主力戦車の生産強化を急務としている。紛争情報チーム(CIT)の綿密な調査報告によると、2024年にはT-90Mの年間生産台数が300両に達した可能性があり、これは2022年の生産量の実に4倍に相当する驚異的な増加である。
T-90M生産の急増とその背景
Для тех, кто пропустил наш материал про произвотво танков Т-90М, тред с ключевыми выводами нашего исследования👇
— CIT (@CITeam_ru) June 24, 2025
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CITの最新レポートが示すデータは、ロシアの戦車生産能力が急速に回復していることを明確に物語っている。T-90Mの生産数は、2022年の60~70両から、2023年には140~180両へと倍増し、2024年には250~300両という大幅な増加を記録した。このペースは2025年も続くと予測されており、ロシアが戦力維持に躍起になっている現状が浮き彫りになっている。
T-90Mの本格生産は2020年に始まった。ウクライナ侵攻直前の2022年2月までに、ロシア軍は既に120~150両のオリジナルT-90と、約280両のT-90A派生型を保有しており、さらに66~85両のT-90Mが最前線部隊に配備されていた。しかし、侵攻当初、T-90Mは温存され、初めてその姿が戦場で確認されたのは侵攻開始から2か月後、キーウ周辺からの撤退期であり、この際に初の損失が確認された。
ロシア唯一の戦車メーカーである「ウラルヴァゴンザヴォード(UVZ)」は、2022年にT-90M戦車を60~70両生産したと推定されている。翌2023年には生産台数が140~180両に急増し、2024年には200両を超え、最大で300両に迫る勢いを見せた。当初、T-90Mは既存のT-90戦車の近代化改修版として位置づけられていたが、現在の生産台数は既存のT-90の数を上回っており、現在生産されているT-90Mは全て新造戦車である。UVZは2023年に三交代制を導入し、24時間操業体制に移行。新たな溶接・機械加工ステーションへの投資など、生産能力のさらなる向上に努めている。
制裁下の生産維持と将来への影響
2014年のクリミア併合以来、UVZは米国の制裁リストに名を連ねている。2022年のウクライナ侵攻以降、半導体や精密機械の輸入制限により部品不足や生産コスト上昇に見舞われたものの、CITの分析によると、ロシアは中国や北朝鮮からの部品調達によってこの困難を乗り越えている。
2022年2月のウクライナ侵攻開始から2025年6月までの期間で、540~630両のT-90Mが生産され、そのうち130両以上が失われたと推定されている。この数字に基づくと、現在のT-90Mの戦力は410~500両であり、これはロシア軍が保有する全戦車の約15%に相当する。ロシアは2022年以降、少なくとも3,000両以上の戦車を失っており、特に2024年だけでも1,050~1,100両を失ったとされている(ウクライナ国防省の統計では1万両を超える)。
しかし、ロシア軍は様々な対策を講じており、戦闘の様相がドローンや間接射撃、精密誘導兵器による中長距離戦に移行しているため、戦車戦自体の減少傾向が見られる。これにより、2025年には戦車の損失が減少すると予測されている。CITは、これまで損失に生産が全く追いついていなかった状況が、現在の生産ペースによって戦力維持に追いつく可能性を指摘している。現在の傾向が続き、戦闘作戦が停止した場合、ロシアは3年以内に約1,000両の新型戦車を生産し、10年以内には最大3,000両の新型戦車を配備する可能性があると推定されている。CITは、これが地域の安定に影響を与え、将来の新たな軍事衝突につながる長期的なリスクであると警鐘を鳴らしている。
T-90Mの性能と限界
T-90Mは、ロシアの次世代戦車であるT-14アルマータの量産までの「つなぎ」として、性能が陳腐化していたT-90を近代化した戦車である。T-90はT-72をベースに改良された第3世代戦車で、ソ連崩壊後の混乱と財政難により本格的な量産は2000年代以降となったため、その頃には既に性能が陳腐化していた。T-14の量産が思うように進まないこともあり、T-90Mは2020年4月に配備された。
T-90Mには、当初、T-14と同じ2A82-1M 125mm滑腔砲を搭載する計画だったが、今の量産版はT-72やT-80と同じ2A46M-5 125mm滑腔砲を搭載。Kalina射撃統制システムにより照準は自動補正される。砲弾は43発搭載可能で、うち22発が自動装填装置によって装填される。APFSDS(徹甲弾)、HEAT、HE-FRAG(破片榴弾)、9M119M Refleks(対戦車ミサイル)など、発射可能で5kmの範囲で標的を攻撃できる。
防御面では、最新バージョンのRelikt爆発反応装甲を搭載し、ソフトキル・アクティブ保護システムのShtora-1は、敵の赤外線照準を妨害し、煙弾を散布して対戦車ミサイルを妨害する。新しい1130馬力のディーゼルエンジンは、整地で最高速度70kmに達する。これらの能力は、第3世代戦車としては屈指の性能とされている。
しかし、経済制裁による部品不足が深刻であり、T-14に近い性能を持たせるはずが、実現には至っていない。CITは、制裁や技術的限界が今後のボトルネックとなることを示唆しており、結果として次世代戦車のT-14アルマータの量産は全く進んでおらず、2030年代の戦場において競争力を維持できるかには疑問が呈されている。