ドイツとフランスが共同開発を進めていた次世代主力戦車MGCS。これまで、意見の相違もあり、参画企業がそれぞれ独自に戦車の開発を進めるなど、暗雲が立ち込めていたが、今回、合同会社を設立する事に合意。23日にパリに関係各社が集まり、株主協定を締結した。これにより、MGCSの開発は大きく前進。今後、開発スピードが加速する事が期待される。
23日、MGCSの開発に参画する企業がフランス・パリに集まりMGCSを開発する合同会社設立のための株主協定に署名した。パリで署名が行われたが、本社はドイツのケルンに置かれる。株主構成はKNDSドイツ 、KNDSフランス、ドイツのRheinmetall(ラインメタル)社、フランスのThales(タレス)社からなり、各社がそれぞれ株式の25%を保有する。つまり、ドイツとフランス、両国の出資比率は均等の50%という事になり、生産分担比率も50%になる予定だ。KNDSはドイツのKMW社とフランスのNexter社の合弁会社で、もともと共同で主力戦車を開発するために2015年に設立された会社だ。その後、MGCSの開発にラインメタルが2019年から参加。レオパルト2の主砲は同社が開発している。タレス社は2024年6月に参加する意向書に署名している。同社は陸上戦闘システムなど、次世代戦車には欠かせないデジタルシステムの開発を担うとされる。
MGCS(Main Ground Combat System)
陸上主力戦闘システム(Main Ground Combat System)を意味するMGCSはドイツのレオパルト2、フランスのルクレールの両主力戦車の後継としてドイツ・フランスの両国によって共同開発されている主力戦車だ。計画自体は2012年に開始。2015年にはレオパルト2を開発するドイツのKMW社とルクレールを開発するNexter社の合弁会社KNDSが創設される。2018年の防衛展示会ユーロサトリでは最初のコンセプトモデルを発表している。
MGCSの詳しいスペックは明かされていないが、2024年のユーロサトリでKNDSが発表した次世代戦車のコンセプトモデル「EMBT ADT 140」では、砲塔は完全無人化され、遠隔操作に。そして、主砲には現在開発中の140mm滑腔砲”ASCALON”を搭載。現在のNATO標準口径が120mmなので、口径は大幅にアップ、威力は増大する。自動装填装置を採用し、最大22発の砲弾を搭載。副武装には砲の横に同軸20mm機関砲、砲塔上部には30mm機関砲、そして7.62mm機関銃を搭載。対空、対人、軽装甲と様々な標的に応じて武装を使い分けできる。人工知能を利用した射撃管制システムを搭載しており、どの兵器を使用すべきかAIが優先順位に従って標的を攻撃するための兵器システムの自動選択と照準をサポートする。トップアタック防御も有する”プロメテウス”アクティブ防御システム(APS)を搭載、トップアタック機能を有する対戦車ミサイルやドローンに対する防護が強化されている。6つの対ドローンレーダー、4つのレーザーおよびミサイル警告センサー、音響銃声検出器が搭載されており、周囲を360度カバーし、いち早く迫る脅威を認識し対処する。MGCSでもこれらに近い機能が搭載される可能性が高い。また、現代主力戦車の課題となっている重量についても軽量化される予定だ。
抜駆け、レオパルト2のバージョンアップ
MGCSの開発を進める中、参画していたラインメタル社は2022年に独自に開発した次世代戦車「KF51 パンター」を発表する。KF51には現在のNATO標準の120mmより大きい、130mm滑腔砲を搭載、オートローダー、射撃を含め全ての機能はデジタル化され、スタンドオフ保護システムStrikeShieldのような新しい力保護技術は、近年の主力戦車の課題でもあった重量の低総重量を可能にしている。シャーシはレオパルト2のものを使うと問題があるためラインメタル社が開発したBpz3a1バッファロー装甲回収車をベースにしている。MGCSの開発に参画しながら、KF51を先行して開発したラインメタルに対し、KNDSは抜駆けと非難した。KF51は既にハンガリーが採用を決めており、MGCSの参加を断られたイタリアが採用を決めたと報じられている。ラインメタル社はウクライナでの生産も予定していると発表している。同社は既に次世代歩兵戦闘車リンクスのウクライナでの生産を始めている。そもそもMGCSの開発は当初の予定より、だいぶ遅れている。2021年から2025年の間に、最初のデモ用プロタイプが開発され、2028年までに試作品の設計は完了。最初の納入は2035年頃を予定していたが、現在の納入予定は2045年とされる。それもあってか、ドイツ軍は2024年にレオパルト2の最新モデルA8の開発を決定。これまで既存車両を改修する形でバージョンアップしてきたが、レオパルト2A8はドイツ軍が1992年以来の新規生産として配備される。オランダやクロアチアなども採用を決めている。新規生産となれば今後30年以上は使用できる。