
トルコは2025年10月28日、長年の悲願であった国産主力戦車「Altay(アルタイ)」の初回量産車両を陸軍に納入するとともに、その量産工場を開所しました。このアルタイ戦車は、2007年に開始された主力戦車開発プロジェクトの成果であり、トルコ防衛産業の国産化と自立に向けた象徴的な一歩として大きな注目を集めています。しかし、今回の初回納入車両においては、駆動系(エンジンおよび変速機)が韓国製に依存しており、「完全な国産化」への移行にはまだ時間がかかる事が示されました。
Türkiye unveils its first mass-produced Altay battle tank as President Erdogan says the country is advancing towards defence industry independence pic.twitter.com/DfWQwBlhjY
— TRT World Now (@TRTWorldNow) October 28, 2025
アンカラ近郊カフラマンカザンに位置するBMCアンカラ工場で執り行われた引き渡し式典には、エルドアン大統領が出席し、陸軍向けの最初の量産版アルタイ戦車が正式に引き渡されました。式典において大統領は、アルタイ戦車がテスト段階で35,000kmの走行試験と3,700発の実射試験を成功裏にクリアしたことを強調し、「これまで追う側だった我が国が、追われる側となった」と述べ、自国の防衛産業の目覚ましい発展を世界にアピールしました。
しかしながら、今回納入された初回バッチのT1構成車両には、トルコ製ではなく韓国製のパワーパック(エンジン+変速機)が採用されています。具体的には、現代ロテム社製の1500馬力DV27KディーゼルエンジンとSNT Dynamics社製のEST15Kトランスミッションが搭載されており、初期量産85両程度はこの韓国製システムを使用する計画です。この背景には、当初トルコが採用を予定していたドイツ製パワーパック(MTU/RENK)に対する輸出許可の遅延や拒否があり、その代替として韓国との協力関係が急速に進展したという経緯があります。
生産体制としては、新工場が月産8両規模、年間最大96両の生産体制を目指して設計されています。初期段階では、2025年に3両、2026年に11両、2027年に41両、2028年に30両の合計85両がT1構成で納入される予定です。その後は、現在開発中の国産パワーパックを搭載するT2構成の165両を含む、合計250両体制が計画されています。また、開所された工場にはカタールのバルザン・ホールディングスが49.9%の株式を保有しており、非公式情報ながら、カタールが100両以上のアルタイ戦車を購入すると報じられています。
このように、アルタイプロジェクトは量産移行という重要な節目を迎えた一方で、駆動系の国産化が未だ途上段階にあるという「移行期」が明確になりました。トルコ防衛産業の“自立”と“輸出戦略”の観点から、今後の国産パワーパックの開発状況とそれに伴う生産体制の進展に大きな注目が集まっています。
Altay(アルタイ)戦車
#ALTAY’ın zırhında Roketsan imzası! 💥🛡️
— ROKETSAN (@roketsan) October 28, 2025
Yeni nesil hibrit yapı, optimize edilmiş mimari ve çoklu vuruş dayanımıyla ALTAY, Roketsan’ın ileri zırh teknolojisiyle sahada yerini aldı.
Cumhurbaşkanımız Sayın Recep Tayyip Erdoğan’ın teşrifleriyle düzenlenen törende ALTAY, Türk… pic.twitter.com/B541DTCSsN
アルタイは、トルコのオトカ社が開発したトルコ初の国産主力戦車です。ドイツのレオパルト2と米国のM60の後継主力戦車として開発され、その設計にあたっては、海外の戦車技術を参考に、技術の60%以上を外国企業からの技術供与を受けています。特に参考にされたのが韓国のK2ブラックパンサー戦車です。主要武装として120mm滑腔砲を搭載し、副武装には12.7mm機関銃、さらにRWS(Remote Weapon Station)にも対応しています。重量は最新の主力戦車としては重い65トンですが、整地での最高速度は65km/hと、高い機動性を保持しています。
ウクライナの戦場での教訓を元に、トルコのアセルサン社が開発した対ドローン機能を備えたアクティブ保護システム「AKKOR APS」が追加されました。アルタイ戦車はまだ発展途上段階にあり、レーザー誘導式対戦車誘導ミサイル(ATGM)の統合など、いくつかの機能がまだ追加されていないとされています。将来的には、T3構成において、より大口径の主砲(130mm、140mmなど)、無人砲塔、密閉型乗員区画、UAV/UGV(無人航空機/無人地上車両)の統合などが検討されています。
今後の展望と課題
今回のアルタイ戦車の初納入は、トルコにとって防衛産業の自立に向けた象徴的な出来事と言えます。長年、輸入や技術移転に依存してきた主力戦車の開発・生産を、自国設計・量産体制へと移行するという明確な転換点を示すものです。
しかしながら、駆動系の韓国製採用という点は、トルコが目指す「完全な国産化」という目標達成にはまだ至っていないことを示しています。トルコの防衛産業が国際市場での競争力を高め、輸出・供給の安定性を確保するためには、パワーパックの国内での開発と信頼性確保が今後の最も重要な鍵となるでしょう。国産パワーパックの開発が成功し、T2構成車両への搭載が実現すれば、アルタイ戦車は真の意味での「国産主力戦車」となり、トルコの防衛産業はさらなる高みへと到達する可能性を秘めています。