ウクライナ軍が損失が増えるアメリカから供与されたM1A1エイブラムス戦車の防護力強化のため、ソ連製の爆発反応装甲(ERA)を追加している事が確認された。
前面装甲に爆発反応装甲(ERA)が追加されたウクライナ軍のM1A1SAエイブラムス戦車の画像がSNSに拡散された。ERAの追加は損失が増えるエイブラムス戦車の防護力強化の一環とされる。シャーシ前面の下部と上部に装着されているのはソ連製のERAである「Kontakt-1」だ。これは、対戦車兵器に対する装甲車両、特に戦車の生存性を高めるため、冷戦中のソ連で開発され、1980年代初頭に初めて導入され、それ以来、ソ連/ロシア製の装甲車両の重要な防護装備になっている。ウクライナ軍のエイブラムスにはエイブラムス用に開発された純正品のERAである「M-19 Abrams Reactive Armor Tile (ARAT)」をサイドスカートに装備している。M19はRHA換算で500~550mmのHEAT弾薬から戦車の側面を保護するが、このERAはサイド保護のみなので、今回、前面の防護力を強化するため、ソ連製のKontakt-1を追加した形だ。
M1エイブラムスの装甲は強固として知られ、正面装甲はRHA換算で1000~1200mmとされ、湾岸戦争ではイラク軍のT-72戦車の125mm滑腔砲をよせ付けなかったとされている。ただ、これは劣化ウラン装甲の場合で、ウクライナ軍に提供されているM1A1では劣化ウラン装甲を取り除いた複合装甲になる。このエイブラムスの装甲はロシア軍の対戦車兵器に対する防御力が十分ではなく、現場のウクライナ兵は以前から懸念を示していた。実際、M1エイブラムスの損失は増えている。今年2月末に最初の損害が確認されると、これまで5月23日時点で少なくとも8両のエイブラムスをウクライナ軍は失っている。
また、この記事を書いている間にもエイブラムスの損失情報がSNSに上がっていたので、更に増えている可能性がある。ウクライナ軍には31両のエイブラムスが供与されたので、僅か3か月で3分の1の戦力を失ったことになる。予備戦力も考えると前線に出た戦力の半数を失ったかもしれない。また、ロシア軍が前線を押し上げた事で、戦場に放棄されたエイブラムスがロシア軍に鹵獲される事態も起きてしまっている。
エイブラムスの多くは対戦車地雷、または自爆ドローンによって脚を止められたところに対戦車ミサイルやロケット弾、152mm誘導弾などでとどめをさされている。なので、正面装甲のERAの追加で、どれだけ損失が防げるのかは不明だ。破壊されるシーンを見ると自爆ドローンによる攻撃の影響が大きい思われるが、ウクライナ軍の戦車にはロシア軍のような対ドローン用のケージ装甲はあまり見られない。ただ、ウクライナ軍は以前にはドイツ製のレオパルト2戦車にも「Kontakt-1」を追加していたので、それを考えると一定の効果があるのかもしれない。ただ、レオパルト2の損失も大きく、エイブラムスを配備する第47独立機械化旅団はレオパルト2A6を配備していたが、直近ではその姿が全く見られなくなった。2A6はドイツから21両がウクライナに供与され、2023年6月に前線に投入されたが少なくとも11両を失っている。レオパルト2A6もエイブラムス同様、ロシア軍に鹵獲されてしまっている。