ウクライナ国防省は9月19日、ハリキウ州でロシア軍の戦車T-90Mをほぼ無傷で鹵獲したことを公式SNSで発表した。T-90Mはロシア軍が実戦配備する戦車としては最新のものであり、大戦果になる。
ハリキウ州で大敗北を喫したロシア軍は大量の装備と弾薬を置いて、逃げるように敗走した。一般的な軍では撤退する際に装備が待ち運べない場合、敵に利用されたり、軍事技術が渡ることを防ぐため、爆破するなど破壊していくのが鉄則だ。特にT-90Mのような最新兵器は軍事機密の塊であり、徹底されるのが普通だが、放置して乗員は逃げたようだ。
T-90M
T-90Mはロシアの最新鋭戦車であるT-14アルマータの量産までの穴埋めとして性能が陳腐化していたT-90を近代化改修した戦車になる。T-90自体はT-72をベースに改良を加えた1992年に登場した第三世代戦車だが、2014年に登場したT-14の量産が思うように進まないこともあり、その穴埋めとして、T-90にアルマータに近い機能を搭載してアップグレード。そして、2020年4月にT-90Mプラルィヴの配備を開始した。T-90MにはT-14と同じ主砲の2A82-1M125mm滑腔砲が搭載され、精度は30％向上、Kalina射撃統制システムによって照準は自動補正される。砲弾数は43発で22発が自動装填装置によって装填。榴弾の「テリニク」は遠隔操作で起爆させることができ、誘導ミサイル弾の「スプリンテル」は飛翔中に軌道を修正できる。装甲にはRelikt爆発反応性装甲の最新バージョンを搭載、ソフトキル・アクティブ保護システムのShtora-1は敵の赤外線照準をうけると赤外線誘導を妨害、煙弾を撒き対戦車ミサイルを妨害する。新しい1130馬力の新しいディーゼルエンジンは整地を最高速度70kmに達し、これらの能力は第3世代戦車としては屈指の能力とされていた。
３両目の損失
今回の捕獲はT-90Mの損失としては３両目になる。
mod russiaロシア軍が実戦配備する主力戦車としては最新鋭のT-90M戦車の破壊が初めて確認されました。T-90Mは20両しかない貴重な戦車です。[adcode]I mean, who could guess[…]
T-90Mは実戦配備されているロシア軍戦車としては最新になるがウクライナ侵攻当時20両しかないため、出し惜しみされていた。しかし、思うように侵攻が進まず、戦車の損害が顕著になった4月末になると最初の車両がウクライナに投入されたことが明らかになる。しかし、その数日後には対戦車ロケットのカールグスタフ無反動砲に破壊されることに。これがT-90M最初の損失になる。
#Ukraine: The Ukrainian 93rd Mechanized Brigade destroyed one more Russian T-72B series tank and an MT-LB armoured vehicle during recent fighting in the East. 2 more tanks appear to be abandoned also. pic.twitter.com/6SPFh1re2J
— 🇺🇦 Ukraine Weapons Tracker (@UAWeapons) July 10, 2022
7月には２両目のT-90Mが放棄されているのが確認されており、これは、ウクライナ軍の攻撃によって破壊されている。破壊しなければ、鹵獲できた可能性もあった。
Announcement
— Defense of Ukraine (@DefenceU) September 18, 2022
The newest russian tank T-90M was found in Kharkiv region in perfect condition. We ask its owner(s) to contact the #UAarmy . Please identify yourself by a sign: a white flag. pic.twitter.com/Lo1KeOtepS
そして、今回の３両目はほぼ無傷な状態でウクライナ軍に鹵獲されていることが画像でも分かる。車両は赤外線検知を防ぐためと思われるマルチスペクトルシートで覆われており、これが他の戦車と比較しても重宝されていたことが分かる。もしくは後で回収するために見つからないようシートをかけて逃げたのか。内部の様子も写真に収められており、操縦席に損傷はないように見受けられる。
More photos [2]
— 🇺🇦 Ukraine Weapons Tracker (@UAWeapons) September 18, 2022
📸: https://t.co/9DmzTINiWx pic.twitter.com/gQfh6qE2jw
後ろから撮られた写真では、履帯が片方外れていたのが確認できた。走行不能に陥り、放棄されたのだろう。しかし、目立った損傷はこれくらいであり、車体はほぼ完全な状態で鹵獲したといってもよい。
Footage of two Russian T-90M tanks in Belgorod Oblast. Interestingly, the first lacks the tower and has some other differences. Maybe an early T-90M model?https://t.co/kjfVwm2ZRi pic.twitter.com/RQbnfirVZG
— Rob Lee (@RALee85) September 5, 2022
この車両はおそらく西部軍管区第一親衛戦車軍第４戦車師団に所属する車両と思われ、８月にはハリキウの北にあるロシアのベルゴロド州で２両のT-90Mが移動するのが確認されていた。彼らはロシア軍最強のエリート戦車部隊とされているが、ハリキウで壊滅的な打撃を受けたと英諜報機関が発表している。同師団の主力戦車はT-80だが、T-90Mが割り当てられた隊員はおそらくエリートの中のエリートの筈なのだが、それでこれなのだから、ロシア軍の凋落ぶりが見える。
鹵獲したロシア軍戦車のほとんどはウクライナ軍に編入され、整備と改修を経て再び戦線に投入されるが、ロシアの最新戦車技術の塊であるT-90Mはおそらく、西側、NATOに引き渡されて分析に回されるものと思われる。