
韓国が開発を進めている次世代水陸両用強襲車両「KAAV II」の試作車が初めて詳細に公開され、その革新的な設計と野心的な性能目標が、国際的な軍事関係者の間で大きな注目を集めている。この車両は、単なる現行モデルの改良型ではなく、水陸両用戦闘の概念を大きく進化させる可能性を秘めた、新世代のプラットフォームとして位置づけられている。
高速水上性能
KAAV IIの開発を担当するのは、韓国の防衛産業大手であるHanwha Aerospaceだ。本車両は、韓国海兵隊が現在運用しているKAAV-7A1(水陸両用強襲車、米AAV7の韓国版)の後継として、2020年代後半の配備を目指して開発が進められている。最大の進化点は、その水上高速性能にある。現行のKAAV-7A1の水上速度が約13km/h程度に留まるのに対し、KAAV IIは20km/h以上、さらには30km/h級の達成を目指しているとされる。これは、世界の主要な水陸両用装甲車と比較しても異例の高速域だ。例えば、日本の陸上自衛隊が使用するAAV7は13km/h、米海兵隊の新型ACV(Amphibious Combat Vehicle)ですら11km/hである。この30km/hという目標速度は、中国人民解放軍の05式水陸両用歩兵戦闘車に匹敵するレベルであり、洋上からの高速突撃揚陸作戦を可能にする性能と言える。
この高速性能を実現するための鍵となるのが、車体設計の抜本的な変更である。KAAV IIは、従来の箱型の水陸両用車とは一線を画し、水面を滑走する「プレーニング型船体」を採用している。これは高速艇に見られる設計であり、水の抵抗を大幅に減らし、エンジンパワーを効率的に推進力に変えることを可能にしている。その外観は、かつて米海兵隊が巨額の予算を投じながらも開発を中止した、高速水陸両用戦闘車「EFV(Expeditionary Fighting Vehicle)」に酷似しており、海外の軍事コミュニティからは「韓国版EFV」と称される声が相次いでいる。
大幅に強化された火力と防御力
KAAV IIは、機動力だけでなく、火力と防御力においても大幅な強化が図られている。
- 火力面: 従来型KAAVが12.7mm重機関銃や40mm自動擲弾発射器を主要な武装としていたのに対し、KAAV IIは無人砲塔に40mm CTA(Cased Telescoped Ammunition:ケース付テレスコープ弾)機関砲を搭載する。これにより、軽装甲車両や敵の強固な陣地に対する攻撃能力が飛躍的に向上した。さらに、CTA機関砲の特徴である**空中炸裂弾(Air Burst Ammunition)**の運用能力は、近年の戦闘で脅威となっている小型FPVドローンなどの迎撃(対ドローン能力)にも重点が置かれていることを示唆している。ウクライナ戦争の教訓を踏まえ、韓国軍が次世代車両に対ドローン能力を強く求めていることが推察される。
- 防御・生存性: 車体は大型化され、それに伴う装甲の強化が図られている。内部空間も拡大されており、搭載兵員の生存性と居住性の向上に貢献している。将来的には、ミサイルなどの脅威を無効化するソフトキルAPS(アクティブ防護システム)や、戦況に応じて装甲レベルを変更できるモジュラー装甲の導入も視野に入っているという。
開発を巡る課題と「EFVの悪夢」
韓国海兵隊が水陸両用戦力を極度に重視する背景には、朝鮮半島特有の地理的要因がある。特に韓国西海岸は、広大な干潟と激しい潮位差が存在するため、効率的かつ迅速な上陸作戦能力が国防上極めて重要とされてきた。また、北朝鮮への逆上陸作戦の可能性や、離島防衛、そして中国海軍の拡張に対する抑止力の確保も、高速かつ重武装の海兵隊戦力整備を後押ししている。しかし、KAAV IIの開発には、その野心的な性能目標ゆえの技術的な課題と懸念が付きまとう。
KAAV IIの重量は35トン超と推定されており、水陸両用車としてはかなりの重量級である。ドイツMTU社の2700馬力級エンジンを搭載することで、高速航行、重装甲、高火力の全てを両立させようとしており、その設計は極めて複雑になっている。これは、かつて米海兵隊がEFV計画で直面した問題と全く同じ構造である。EFVは、水上速度約46km/hという驚異的な目標を掲げたが、複雑な機構による故障率の高さ、整備負担の増大、コストの高騰に苦しんだ。技術的な問題をクリアするための改修が重ねられた結果、1両あたりの調達コストは約25億円にまで跳ね上がり、最終的に2011年に開発中止に追い込まれたという苦い歴史がある。KAAV IIもまた、高速性と多機能を両立させるための複雑な設計が、同様の技術的、経済的な課題を引き起こす可能性が指摘されている。
さらに、2023年には試験中にKAAV IIの試作車が浸水事故を起こし、2名の死亡者を出すという重大な事態も発生している。現在、韓国側は浮力確保や区画防水性能の改善など、安全性を高めるための改修を急いでいるという。
成功すれば世界最高クラスの水陸両用に
韓国は、2028年までのシステム開発完了、そして2029年からの量産開始を目標に掲げている。もしKAAV IIが技術的な課題を克服し、無事に実用化に成功すれば、韓国海兵隊はアジア地域でも屈指の高速機械化揚陸戦力を保有することになる。これは、単なる兵器の更新ではなく、韓国の海兵隊作戦のドクトリンを根本から変える可能性を秘めている。
しかし、この計画は「米国ですら断念したEFV構想への再挑戦」という側面を拭い去ることはできない。近年、韓国はK9自走榴弾砲やK2戦車といった地上車両の開発・輸出で国際的な成功を収めている実績がある。KAAV IIがその成功の系譜を継ぎ、未来の海兵隊戦闘を変える革新的な兵器となるのか、それともEFVと同じ運命を辿るのか、世界の軍事関係者がその行方を固唾を飲んで見守っている。