
ウクライナへの軍事支援を独自に追跡するドイツの非政府団体「German Aid to Ukraine(GAU)」は2026年9月5日、ウクライナ軍に最新鋭の155mm自走榴弾砲「RCH 155」の最初の車両が到着したと明らかにした。政府や業界の公式発表ではなく、外部の情報源を通じた確認だという点には留意が必要だが、ロシア軍のドローンと対砲兵網が常態化した戦場で「いかに発見される前に撃ち、反撃を受ける前に離脱するか」を突き詰めたシステムの実戦投入が、ついに動き出したことになる。
4年越しの調達
RCH155のウクライナ向け調達は2022年9月に18両の供与計画として始まった。その後、ウクライナ軍の要望に応じた仕様変更や戦闘管理システムとの統合、乗員訓練などに時間を要し、発注は最終的に18両ずつ3ロット・計54両にまで拡大された。契約総額はドイツ国防省によれば約8億9000万ユーロ。2025年1月には最初の6両がドイツ国内で引き渡されたが、これは訓練用にとどまり、車両がウクライナ領内に到着したのは今回が初めてだ。KNDS顧問のニコラス・ドラモンド氏が2026年7月上旬にSNSで「最初のRCH 155がウクライナ軍に届き、戦闘で証明されたと呼べるようになった」と示唆し、同月下旬にはピストリウス独国防相も工場視察の際に「ウクライナで非常に高く評価されている」と述べていた。
何が「次世代」なのか
RCH 155は装輪装甲車BOXER(8×8)の車体に、PzH 2000と同系統の155mm/L52砲を組み込んだ無人自動化砲塔「AGM」を搭載する。乗員は車長と操縦手のわずか2人。AGMモジュール単体で12.5トン、車両全体の戦闘重量は約39トンで、815馬力のMTU製ディーゼルエンジンを積む。155mm砲弾30発とモジュラー装薬144個を搭載し、発射速度は資料によれば毎分8〜9発とされる。射程は通常弾で最大40km、V-LAP弾で52〜54km程度が一般的な数値だが、VULCANOやEXCALIBURなど精密誘導弾を使えばさらなる延伸が見込まれ、英国向け仕様では最大70kmとする報道もある。
「走りながら撃てる」は今どこまで実現しているか
最大の特徴は「Shoot & Scoot(撃って逃げる)」の自動化だ。射撃地点への移動、照準、発射、離脱というサイクルをいかに短縮するかが生存性を左右する中、KNDSは走行中の射撃が可能だとしている。ただし防衛専門メディアHartpunktによれば、2025年末時点でこの機能が使えるのは特定の地形に限られ、速度も時速30km程度が上限とされる。最高速度100km/超はあくまで舗装路、BOXER車体としての走行性能であり、このスピードで「走りながら撃つ」ができる訳ではない点は理解する必要がある。この制約が実戦運用の中でどこまで可能なのかが今後の焦点だ。
PzH 2000との違い

すでにウクライナにはPzH 2000(戦闘重量約55トン)が供与されているが、RCH 155はPzhと比べ約39トンと大幅に軽量だ。装軌式のPzH 2000に対し、装輪式のRCH 155は道路上での高速走行が可能で、航続距離も700kmに達する。高い火力を維持しながら機動性と展開速度を高めた装輪式自走砲、という位置づけになる。同じ装輪式のHIMARSがその機動力で生存性が高かったように装輪式のRCH155にもHIMARSのような活躍が期待される。
「無敵の自走砲」ではない
もっとも、RCH 155が戦場を一変させるわけではない。ロシア軍も偵察・攻撃ドローンを多数運用しており、高価な自走砲は発見されれば即座に標的となりうる。HIMARSも損失は増えつつある。54両という数も、広大な前線全体を支えるには限られた規模だ。加えて、ウクライナは自国製自走榴弾砲「ボグダナ」の月産を約40両規模まで拡大し、牽引式と合わせた累計生産は1000門を超えたとされる一方、ここ9カ月ほど新規発注が止まっているとの報道もあり、国産火砲で一定の充足が進んでいる可能性も指摘される。RCH 155はドローンや対砲兵レーダー、指揮統制システムとネットワーク化されて初めて真価を発揮する装備であり、単体の性能以上に統合の進み具合が今後の評価を左右するだろう。
広がる採用国、NATOの次世代標準になるか
RCH 155への関心はウクライナにとどまらない。ドイツ本国でも2026年1月、連邦軍向けに84両・約12億ユーロの大型契約が結ばれ、最大500両までの調達を可能とする枠組み契約も設定された。英国は2026年4月30日、OCCAR(欧州共同装備協力機構)を通じてARTEC(KNDS・ラインメタル合弁)に72両を発注(公表は同年5月、契約総額は約10億ポンド)、納入は2028年から2031年にかけて予定される。カタールも保有するPzH 2000の一部をBOXERベースのRCH 155へ更新する方針とされ、スイスは装軌式ではなくピラニアIV(10×10)車体版を32両発注済みだ。次世代装輪自走砲がNATOの標準装備になり得るかを占う上で、その最初の実戦ユーザーとなるウクライナの経験が持つ意味は大きい。
発見されにくく、素早く撃ち、短時間で離脱する――その真価が問われるのはこれからだ。54両のRCH 155がウクライナの砲兵戦術をどこまで変えるのか、そして「走行中射撃」という約束された能力が実戦の制約の中でどこまで発揮されるのか。今後の運用実績が、この次世代自走砲に対する評価を最終的に決定づけることになる。
主な参照元:German Aid to Ukraine(deaidua.org)、Militarnyi、Defence Blog、Janes、Army Technology、Breaking Defense、Armada International、meta-defense.fr、grandfleet.info、日本語版Wikipedia「RCH 155」(2026年9月時点の情報に基づく)