台湾がアメリカから購入したM109A6 155mm自走榴弾砲の納入が遅れており、中国の脅威が迫る台湾に対しアメリカは他の代替案を提示しました。
米国のバイデン政権は2021年8月、台湾へのM109自走砲の売却を承認。台湾総統府は総額7億5000万ドル(当時で約820億円)で近代化改修された40両のM109A6、155mm榴弾を高精度の砲撃が可能なGPS誘導砲弾に変換する約1,700個のM1156精密誘導キットを購入する契約を米政府、M109の製造元であるBAEシステムズと締結しました。40両は2023年に8両、24年、25年に各16両が納入される予定でした。しかし、台湾日報の報道によれば、5月2日、米国防省から、台湾国防省に「最初の納入は2026年になる」と通達があり、当初の予定よりも3年も遅れることになります。
ロシアによるウクライナ侵攻が影響か
M109の開発製造を手掛けるイギリスのBAEシステムズは世界最大の軍需企業の一つでアメリカ軍、イギリス軍の重要な兵器サプライヤーであり、陸海空と様々な兵器、弾薬を提供しています。今回、M109の台湾への納入の遅延について、理由は明かされていませんが、ロシアのウクライナ侵攻が関係しているのではと推測されています。米英ともにウクライナの最大の支援国であり、多くの兵器と弾薬を提供しています。米軍がウクライナ軍に90基提供したM777榴弾砲や英軍が提供したAS-90自走砲20両もBAEが製造しています。これらの支援のためにBAEの生産ラインが逼迫しており、M109の生産が追い付いていないのではと推測されています。
M109の代わりにM142 HIMARSを提供へ
M109は1962年に生産が始まった古いモデルですが何度か近代化改修が行われており、台湾に提供されるものは最新のM109A7の一世代前の”M109A6 パラディン”になります。M109A6は長砲身化され射程が向上、装甲も強化され生存率が上がり、射撃管制装置の改良により精度が向上しています。中国による侵攻の脅威が迫る台湾にとっては30kmの射程、分間8発の発射速度を持ち、M1156により精密射撃が可能なM109は防衛装備として大きな期待が寄せられていました。それが3年も遅れるのは台湾の安全保障に深刻な影響を与えます。
そこで、米国は代替案として高機動ロケット砲システム”M142 HIMARS”の提供を打診しています。
M142はアメリカのロッキードマーティン社によって1990年代後半に開発された装輪式自走多連装ロケット砲です。227mm口径のミサイルは弾薬の種類に応じて射程は異なり、200kmから最大500 kmになります。これは台湾海峡を越えて中国本土を狙える距離になり、中国にとってはM109以上に脅威です。台湾は11両のM142と64発の最大射程280kmの対地ミサイルMGM-140 ATACMSを要求したとされています。
最終的に台湾はM109A6とM142 HIMARSのどちらを選択するのでしょうか。
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