
2025年5月23日、ドナルド・トランプ大統領は、遠隔地に所在する米軍基地への電力供給を目的とした小型原子炉(マイクロリアクター)の開発及び配備を陸軍に指示する大統領令を発令した。本命令は、国家安全保障上の観点から先進的な原子炉技術の導入を推進するものであり、陸軍長官に対し、国内の軍事施設における原子炉の運用を2028年9月30日までに開始することを要求している。
[ad]本大統領令の主たる目的は、遠隔地或いは戦略的に重要な拠点における電力供給の信頼性を向上させ、従来のディーゼル発電機への依存による燃料供給の脆弱性を解消することにある。本命令書には、「第3世代+原子炉、小型モジュール原子炉(SMR)、マイクロリアクター、定置型原子炉並びに移動型原子炉を含むこれらの原子力システムは、重要な防衛施設やその他の任務に対し、強靭性、安全性、信頼性の高い電力を供給する」と明記されている。軍の様々な装備が電子化され、電力需要が高まっているの加え、今後需要が増大する人工知能(AI)データセンターやその他の重要インフラへの電力供給を強化することが求められている。
[ad]本命令の発令により、陸軍は小型原子炉の開発及び配備の主導機関として指定された。具体的には、「Project Pele」と称される計画が推進されており、この構想は2016年、国防科学委員会(DSB)が基地における電力確保の重要性を指摘し、従来のディーゼル発電依存は脆弱であるとして、原子力の活用を提案したことに端を発する。そして、2019年に発案され、2021年5月28日に発表された米国防総省の2022会計年度予算案に6,000万ドルの開発予算が盛り込まれた。2022年6月にはテキサス州に所在する原子力コンポーネント専門メーカーである「BWXテクノロジーズ」社に対し、マイクロリアクターの建設を委託する3億ドルの初期契約が授与された。
[ad]「Project Pele」は、1〜5メガワットの電力を供給可能な移動式マイクロリアクターの開発を目指すものである。最大出力時には100万~500万ワットの電力を供給し、燃料は一度充填すれば3年間連続稼働が可能であり、3年ごとに交換が必要となる。本リアクターは、20フィートコンテナに対応しており、道路、鉄道、航空機、海上輸送によって展開可能であり、迅速な電力供給が実現可能とされている。
開発を進めるには原子力規制委員会(NRC)を通しての許認可が不可欠であり、政府間の調整が必要となるが、トランプ政権は、原子力発電の迅速な導入を促進するため、原子力規制委員会(NRC)の許認可プロセスを18か月に短縮する等の規制緩和を推進している。また、放射線被曝基準の緩和も検討されているが、これに対しては安全性への懸念が専門家から指摘されている。ミサイル・無人機攻撃などからの防護強化が必要との懸念も存在する
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