
ドイツとオランダが共同調達する新型装輪歩兵戦闘車「ジャッカル(Schakal)」の調達数が、合計291両に拡大しました。2026年10月29日、ドイツの防衛企業ラインメタルは、欧州共同装備調達機関OCCARから、追加69両の製造に関する発注を受けたと発表しました。ジャッカルは、8輪式装輪装甲車ボクサーの車体に、ドイツ軍のプーマ歩兵戦闘車で採用されている無人砲塔を組み合わせた車両です。装輪装甲車の機動性と歩兵戦闘車の火力を融合させた設計で、ドイツ軍が整備を進める「中規模戦力」の主力装備となります。
ボクサーの車体にプーマの無人砲塔

ジャッカルの正式な車両名称は「BOXER RCT30」です。ドイツ軍がSchakalという名称を付けた車両で、基本構造はボクサーの8輪式車体に、RCT30無人砲塔を搭載したものです。ボクサーはドイツやオランダ、イギリスなど複数の国が採用する装輪装甲車で、車体となる走行モジュールと任務モジュールを分離した設計が特徴となっています。兵員輸送型や指揮車型など、共通の走行部分を利用してさまざまな派生型を構築できます。

一方、プーマはドイツ陸軍の主力歩兵戦闘車で、高い防御力と火力を備える装軌式車両です。ジャッカルはプーマの無人砲塔を採用することで、ボクサーの車体防御や機動性を生かしながら、歩兵戦闘車としての攻撃能力を獲得しました。砲塔は車体内部から遠隔操作する方式で、乗員が砲塔内に搭乗する必要はありません。これにより、車体内部を乗員や歩兵のために利用できます。
30mm機関砲と対戦車ミサイルを搭載

主武装はラインメタル製の30mm機関砲MK30-2/ABMで、7.62mm同軸機関銃MG5も装備しています。MK30-2/ABMの特徴は、プログラム可能な空中炸裂弾(ABM:Air Burst Munition)を使用できることです。弾薬を目標付近の空中で炸裂させることで、遮蔽物の背後にいる歩兵などにも破片を浴びせられます。また、空中炸裂弾と射撃管制・追尾システムを組み合わせることで、小型無人機などへの対処にも活用できます。ジャッカルは地上目標だけでなく、低空の航空目標に対する自衛能力も備えています。ただし、本格的な防空ミサイルシステムを搭載する専用防空車両ではありません。
さらに、対戦車ミサイルシステムMELLSを装備しています。これはドイツ軍のSPIKE LR系列ミサイル運用システムで、砲塔側面の発射機から対戦車ミサイルを発射できます。30mm機関砲では対処が難しい敵戦車や重装甲車両に対しても攻撃手段を持つことから、通常の装輪装甲兵員輸送車よりも高い戦闘能力を備えています。
最大38.5t、816馬力の8輪装甲車
メーカーが公表する主な諸元は以下の通りです。
- 全長:約7.93m
- 全幅:約2.99m
- 全高:約3.51m(砲塔上面まで)
- 車両重量:最大約38.5t
- エンジン出力:最大600kW(約816馬力)
- 最高速度:100km/h超
- 航続距離:1,000km超
- 主武装:30mm機関砲MK30-2/ABM
- 副武装:7.62mm同軸機関銃
- 対戦車兵器:SPIKE LR(MELLS)
車体は8輪駆動で、舗装道路を利用した長距離移動に適しています。メーカーの一般仕様では乗員3人と下車兵最大7人を収容できますが、今回のドイツ・オランダ向け調達仕様では乗員3人に下車歩兵6人を搭載します。
装輪式歩兵戦闘車を必要とする理由
ジャッカルの導入は、ドイツ軍が進める「中規模戦力(Mittlere Kräfte)」の整備と密接に関係しています。この構想は、軽部隊と重装備を持つ部隊の能力の空白を埋めるものです。空挺部隊などの軽部隊は迅速に展開できる一方、重装甲車両や強力な火力が不足しやすいです。反対に、レオパルト2戦車やプーマを装備する重部隊は高い戦闘力を持つものの、車両の輸送や補給に負担が伴います。そこで装輪式装甲車を中心にした部隊を新たに編成し、道路網を利用して長距離を迅速に移動できる戦力を整備します。中規模戦力は機動性だけでなく、敵の装甲車両にも対抗できる火力を備えることが求められます。ジャッカルは、その歩兵部隊にとって重要な戦闘車両となります。ドイツ軍だけでなく、オランダ軍も13軽旅団に新型車両を導入し、歩兵部隊の火力を強化します。
調達数は291両、さらなる追加も可能
当初の調達契約は2025年10月に成立し、ドイツが150両、オランダが72両の合計222両を発注しました。その後、2026年8月に契約オプションが行使され、ドイツが35両、オランダが34両を追加しました。これにより、調達数はドイツ185両、オランダ106両の合計291両となりました。10月29日のラインメタル発表では、この追加69両に関する同社への発注が明らかにされ、納入は2032年5月から2033年11月までを予定しています。当初発注分については、最初の車両が2027年末から納入される計画です。なお、2025年の契約には最大200両の追加調達オプションも含まれているため、291両が最終的な調達上限というわけではありません。
ジャッカルは、主力戦車や重装軌式歩兵戦闘車を置き換える車両ではありません。ボクサーの優れた機動性と防御設計を生かしながら、プーマ由来の砲塔によって火力を強化した装輪歩兵戦闘車です。欧州諸国が重装備だけに依存せず、迅速に展開できる機械化部隊の整備を進めていることを象徴する車両といえます。