ロシア軍は新たに5つの重砲兵旅団を創設する計画をしていると報道されている。砲兵旅団の中核をなすのが240mm重迫撃砲「2S4チュリパン」と203mm自走カノン砲「2S7ピオン」の2つの自走重砲だ。
ウクライナ侵攻前、ロシア軍の重砲兵旅団は西部軍管区に本拠を置く第45重砲旅団1つだけだったが、これが一気に5つ増えることになる。ロシアメディア報道によると、これらの計画の開始はすでに進行中であり、最初の重砲兵旅団である第17旅団の編成がウクライナに侵攻するロシアの第3軍団内で進められている。この旅団には、保管基地から運び出された大口径砲システムが配備される予定だ。第3軍団の現在の主な作戦活動域はウクライナ南部のザポリージャン州地域に集中していると伝えられており、第17旅団も同地域に配備される可能性が高い。残りの4つの旅団がどこに創設されるかは不明だ。
これら新設される重砲兵旅団の主力をなすのが240mm重迫撃砲「2S4チュリパン」と203mm自走カノン砲「2S7ピオン」とされている。The Military Balance 2023 によると、ロシア軍の備蓄には約200両の2S4チュリパンと約260両の 2S7ピオンがあるとされ、長い射程を活かし、対砲撃戦に投入されると推測されている。
240mm重迫撃砲「2S4チュリパン」
The 240-mm self-propelled mortars 2S4 ‘Tyulpan’ and its crews continue to perform strikes on the fortifications, command posts, artillery and missile batteries of the Ukrainian forces.
— RT (@RT_com) May 3, 2023
Coordination for these missions are provided by Orlan-10 unmanned aerial vehicle operators. pic.twitter.com/VxWujWpReo
チューリップとも呼ばれるこの自走砲は240mm口径の迫撃砲を搭載し、現役の自走迫撃砲としては世界最強の威力を有している。2S4チュリパンは1960年代後半にウラル輸送機械製造工場(Uraltransmash)で開発。最初のプロトタイプは1969年に完成。1971年にソビエト軍に採用が決定。1975年よりソビエト軍に配備され、アフガニスタン侵攻の際の1985年に実戦デビューする。1988年までに588輌が製造された。搭載されている迫撃砲は第二次大戦中に開発が始まり、戦後の1950年に採用された曳航式迫撃砲M-240。大型の迫撃砲というと120mmが一般的だが、M-240の口径はその倍240mmを誇り、砲弾重量は130kgにものぼる。迫撃砲は一般的に砲口から弾薬を装填する前装式だが、砲身が長く、弾薬重量も重いため榴弾砲のように後方から機械装填する後装式を採用している。迫撃砲としては発射速度が遅く、1分間で1発しか発射できない。通常弾で最大射程は10km、ロケット推進弾で20km。車輛には標準弾で最大40発を搭載。そして、2S4チュリパンの最大の特徴が核弾頭を搭載した核砲弾を発射できる点だ。射程9.5kmの3VB4と18kmの3VB11の2つがあり、その威力はTNT火薬換算で2キロトンの威力を有する。しかし、2S4チュリパンはソ連崩壊後の1990年代半ばにほとんどの車輛が倉庫送りに。更に冷戦終結に伴いロシアと米国は核砲兵部隊の活動を停止。これにより核砲兵部隊の活動も停止され、開発された核砲弾は全て廃棄された。1999年に第二次チェチェン紛争の際に10輌がアクティブ化されているが、まだ多くが倉庫に眠っており、今回、それを復活される形だ。
203mm自走カノン砲「2S7ピオン」
Работа самоходной 203 мм пушки 2С7 "Пион" сухопутных войск ВС России. Одна из самых мощных самоходных пушек стоящих на вооружение в мире! pic.twitter.com/bma7kIxUrO
— Анатолий Власов 🇷🇺 (@AnatolyVlasov87) November 19, 2018
1976年にソ連軍に就役した自走カノン砲で計1000両が製造され、ソ連崩壊ともに旧ソ連諸国に分配、ウクライナ軍も100両近く保有している。砲塔がむき出しの無限軌道自走砲で全長10.5m、高さ3m、幅3m、時速50km、走行距離650km。14人の兵士によって操作される。口径は203mmで、砲弾重量は1発あたり103~110kg、射程は通常弾で30km~、ロケット推進弾で48km~と西側の52口径155mm榴弾砲と同等、それ以上の射程を有する。発射速度は1.5発/分、初速が非常に速く、960 m/s近くになる。車載砲弾は僅か4発しかなく、作戦行動には弾薬運搬車の随行が必須になる。自走砲ではあるが、砲撃準備に約6分、撤退準備に約5分と牽引式火砲並みの時間がかかる。また、203mmと大口径で砲撃時の衝撃が凄いため、発射5秒前に警告音が発し、近くの兵士に警告する。1980年代には改良型の2S7M 「マルカ」が登場。射撃管制システムが改良され、発射速度が2.5/分、砲弾搭載が8発にアップしている。しかし、2S4チュリパン同様、2S7ピオンも冷戦後、多くが倉庫で保管されることになったが、2022年のウクライナ侵攻以降、60両の2S7Mがロシア軍で現役になっている。
砲弾供給が課題
ただ、5つの重砲兵旅団を増やしたところで、弾薬を供給できないのではという問題が指摘されている。ロシア軍は1日、25,000発の砲弾を必要としているが、そもそも、現状、北朝鮮から35万発もの砲弾を供給してもらうほど逼迫している。そこに、いきなり5つもの砲兵旅団が増えればさらに逼迫するだろう。また、240mm、203mmという口径はロシア軍の火砲の通常規格122mmや152mmとは違う。ただ、それは裏を返せば、まだ多くの砲弾在庫が倉庫に眠っているということにもなる。外国情報機関によると、ロシアは400万発の砲弾を備蓄しているとされている。戦車砲弾や122/152mm榴弾砲の多くは消費した可能性が高いが、2S4チュリパンと2S7ピオンが倉庫に眠っていたことを考えると、砲弾も同じく多数倉庫に眠っていた可能性が高い。
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