
アメリカ陸軍は、フルレート生産、500両の調達を予定していた新型戦闘車両「M10 Booker(ブッカー)」計画を正式に中止した。
Pentagon cancels procuring M10 Booker combat vehicles due to ‘current world events’
ロイター通信の報道によれば、2025年6月11日付で、米国防総省は新型戦闘車「M10 Booker」の調達を公式にキャンセルすると発表した。国防総省は声明において、「陸軍は戦争に勝利する能力の配備を加速するため、2025年度の残りの資金の再配分を要請し、今後18~24カ月以内にさらに大幅な節約が完全に実現すると予想している」と述べた。同日、米陸軍は「初期少量調達(LRIP)」の契約を「契約終了(termination for convenience)」として打ち切り、本格量産に移行しないと明言した。これにより、M10ブッカー計画は完全に中止となった。
M10ブッカーは、陸軍の要求に応じて開発され、20年ぶりの新型戦闘車両であり、歩兵旅団戦闘団に対し、機動的な防御力と直接射撃能力を付与し、敵の軽装甲車両、強化陣地、歩兵に対して、効果的かつ持続的な長距離射撃を与え、現代戦における柔軟性と軽量化の要求に応え、高い機動性と火力を両立させ、C-17やC-130による空輸・空中投下が可能であり、迅速な前線投入を実現する予定であった。
しかしながら、M10ブッカーは装甲戦闘車としては最大42トンと重量があり、軽量化とコンセプトの中途半端さが指摘されていた。空輸・空中投下を目的としていたブッカーだが、開発途中でC-130輸送機での空輸が不可能という事が判明し、2両の搭載を計画していたC-17輸送機では1両しか搭載できないことが判明した。しかも、40トンを超える重量のため空中投下も不可能で空輸のみとなる事も判明した。ちなみにC-17はエイブラムス戦車1両を空輸可能であり、M10ブッカーの空輸機動能力のメリットは無くなった。また、40トンを超える重量は渡れる橋梁や地形を限定し、機動性の低さも明らかになっている。また、整備権限が開発生産元であるジェネラルダイナミクス・ランドシステム(GDLS)に限定され、陸軍自身がより柔軟に3Dプリンタ等でパーツ生産して整備できない構造だったことも批判された。
しかしながら、米陸軍はこれらの課題について分かっていながらも計画を進め、調達を決定した。2024年4月には最初の車両が陸軍に納入された。陸軍広報担当者によれば。「初期少量調達(LRIP)」で既に陸軍は量産型車両を26両保有している。本来であれば2025年夏には第82空挺師団に最初の運用中隊が誕生する予定だった。そして、2027年にフル生産を開始、最終的に504両が生産される計画だったが、残りの生産分はキャンセルされることとなった。納入済車両の一部は既存の機甲部隊に転用し、戦術試験機として利用、または保管され、将来の再評価対象に。もしくは海外売却が検討されている。投入される予定だった予算はドローンや無人車両、新技術へ再配分される予定である。