東部でのロシア軍との激しい地上戦が予想されるウクライナにはNATO各国から、多数の重火器が支援として送られています。特に目立つのが155mm砲です。牽引式に自走砲と様々な155mm砲が送られる予定です。
東部は平原地帯で森林が少ない見通しの良い場所であり、また、これまでのような防御一辺倒ではなく、反転攻勢にでることもあり、待ち伏せして歩兵の対戦車ミサイルで攻撃とはいかず、戦車を交えた重火器による激しい戦闘が予想されています。単純に戦車の正面からのぶつかりあいとなると損害は大きく、更に空には戦車の天敵、攻撃ヘリが控えており、ロシア戦車部隊の射程内での戦いは不利です。そこでNATO各国はウクライナからの要望時に応じ、ロシア地上部隊のアウトレンジから攻撃可能な155mm砲の提供を予定しています。ロシア戦車の主砲の射程は最大4000m、主砲から発射できる対戦車ミサイルで5000mなのに対し、155mm榴弾砲は20~30kmです。前線のウクライナ機動部隊がロシア軍を押し返すには後方からの155mm砲の強力な支援射撃が必要です。
M777 155mm榴弾砲
アメリカとカナダ、オーストラリアが提供するのが、牽引式のM777 155mm榴弾砲です。アメリカは72門、カナダは4門、オーストラリアは6門提供します。M777は米陸軍と海兵隊が採用する牽引式榴弾砲としては最新のものです。重量は4tと同口径の榴弾砲としては軽く、7tトラックで牽引、UH-60 ブラックホークといった中型の汎用ヘリで吊り下げて運ぶこともできます。射程は最大30km、1分間に最大4発が発射可能です。アメリカは144000発の砲弾を提供、カナダはGPS誘導可能な精密誘導弾のM982エクスカリバー弾を提供します。
M777 155mm榴弾砲でM982を発射する様子(US Army) カナダはウクライナへの追加支援としてM777 155mm榴弾砲4門とそれに使用する長距離・精密誘導弾のM982 エクスカリバー誘導砲弾を提供しました。 [a[…]
PzH2000 155mm自走榴弾砲
オランダはドイツ製のPzH2000を提供することを決定、台数は不明ですが、保有している39両中、約半数が運用中であり、即時性を考えると運用中の物が提供された可能性が高いと思われます。砲弾の提供と訓練はドイツが行います。PzH2000は1998年からドイツ連邦軍で運用されている自走砲でレオパルト2戦車のコンポーネントとシャーシに基づいて開発されています。搭載する52口径155mm砲の最大射程は標準弾で40km、ロケット推進弾で最大67kmに達します。搭載弾薬数は60発、自動装填装置を搭載し、10秒間に3発、または56秒間に10発を発射します。
Photo Bundeswehr オランダ政府はウクライナへの追加支援として、ドイツ製の155mm自走砲Pzh2000の提供を決めました。ドイツ政府は必要な155mm砲弾の提供とウクライナ兵への訓練を行います。 [adcode[…]
AS-90 155mm自走榴弾砲
イギリスは20両のAS90と45000発の砲弾をウクライナに送る予定です。AS90は1993年に量産が始まったイギリス製の自走砲です。イギリスは約200両を所有し、稼働数はその半分です。主砲は39口径155mm砲ですが、97両を長砲身の52口径155mm砲にアップグレードしています。39口径で射程は24.7km、52口径で30km、ロケット推進弾で40kmになります。48発の砲弾を搭載し、自動装填装置を搭載し、10秒間に最大3発発射可能です。
M109 155mm自走榴弾砲
イタリアはM109自走砲をウクライナの支援として送る予定です。39口径155mmを搭載するM109はアメリカ軍で1960年代に配備が始まった車両で古いモデルです。自動装填装置は搭載しておらず、近代的な射撃管制装置もついていません。36発の砲弾を搭載し、発射速度は最大毎分8発、射程は標準弾で20km、ロケット推進弾で30kmになります。イタリア軍では自走砲はPzH2000に切り替わっており、200両ほどあったM109は約20年間予備役と保管状態にあり、提供には状態の確認と整備が必要になり、状態によっては時間がかかるかもしれません。そのため、稼働中のPzH2000の提供も検討されています。
カエサル 155mm自走榴弾砲
フランスは40両のカエサルと数千発の砲弾をウクライナに送りました。カエサルは2008年からフランス軍に配備が始まった52口径155mmを搭載するフランス製の自走砲です。これまで紹介した自走砲は履帯式のシャーシをベースにしたものになり、最大速度は60km前後になりますが、カエサルはトラックシャーシベースの自走砲になり、整地であれば最大速度100kmという高い機動力を持っています。ただ砲塔は装甲で覆われておらず、トラックに榴弾砲を積んだような形で自動装填もなく、これまでの自走砲と比べると防御、砲弾搭載数は劣ります。16発の砲弾を搭載し、発射速度は毎分6発、射程は最大30kmになります。
ズザナ 155mm自走榴弾砲
S-300対空ミサイルを送るなどウクライナへの支援に積極的なスロバキアは自国製のズザナ自走砲を追加で送ることを検討しています。スロバキアは既にダナ 152mm自走砲をウクライナに提供していますが、ズザナはそれをNATO仕様の45口径155mm砲に改良したモデルになり、基本設計はダナと同じであるため、ウクライナ側もスムーズに導入できます。スロバキアの保有数が16両のため、提供されるのは数台になると思われます。8×8の装輪車になり、整地を最大80kmで走行します。40発の砲弾を搭載し、自動装填装置を搭載、発射速度は毎分6発、最大射程は40kmです。
ウクライナには76両の牽引砲と少なくとも60両の自走砲が提供されます。ウクライナ軍が使用してきソ連基準の兵器と異なるため、訓練は必要ですが、既に訓練は始まっており、数週間否には戦線に投入されることになると思われ、強力な火力を手に入れることなります。