
米陸軍第18空挺軍団が、地上を走り、そのまま空も飛べる「空飛ぶバギー」の試験を行いました。陸軍は、道路や滑走路といった固定インフラに頼らずに、偵察、補給、負傷者搬送(CASEVAC)へ使えるかどうかに注目しています。報道によると、この車両は米SkyRunner社の「SkyRunner(スカイランナー)」です。
ドローン戦を想定した実験の一角で試験
試験は2026年9月16日、ノースカロライナ州フォート・ブラッグのHolland Drop Zoneで行われました。第18空挺軍団が主導する実験イベント「Scarlet Dragon 26-3」(陸軍発表では9月11〜17日)の一環です。Scarlet Dragonは、軍と民間企業が新技術を実戦に近い条件で試す取り組みで、年3回程度開かれています。今回はドローン、対ドローン技術、自律技術、センサー、指揮統制システムなどが対象で、最大100機規模のドローン群を使い、大量の無人機に対処できるかが検証されました。陸軍は試験機を「dual-mode air-ground light tactical vehicle(地上・空中両用の軽戦術車両)」と呼び、滑走路や固定インフラに頼らず、地上走行と飛行を切り替えられるかを評価しました。
SkyRunnerとは

SkyRunnerは、4輪のオフロードバギーに、ラムエア式のパラフォイル(パラシュート型の翼)と後部プロペラを組み合わせた「動力付きパラシュート」方式の機体です。バギーに翼を付けただけの構造ではなく、地上用と飛行用で別々のエンジンを備えています。地上用は出力89馬力のPolaris ProStar 1000、飛行用は防衛向け仕様で175馬力に改良されたRotax 912です。飛行時は収納した翼を広げて離陸します。操縦は左右の操舵用トグルとスロットルペダルの2系統で、メーカーによれば初心者でも約14時間の訓練で単独飛行できるとのことです。
主なスペック(メーカー公表値・MK3.2防衛向け)
- 寸法:全長約4.06m、全高約1.93m、翼幅約11.6m
- 重量:最大離陸重量約907kg、有効搭載量約362kg、乾燥重量約553kg
- 速度:地上最高約113km/h、飛行巡航約72km/h
- 航続:飛行最大約200海里(約370km)、地上最大約400マイル(約640km)
- 離着陸距離:それぞれ約600フィート(約183m)
ただし数値は資料によって異なります。民生向けの資料では、飛行航続が約120マイル(約193km)、地上航続が約240マイル(約386km)とされ、離陸距離を約450フィート(約137m)とする報道もあります。今回の試験機が防衛向け公表値と一致するとは限らないため、あくまでメーカー公表値として見る必要があります。民生向けの価格は14万〜15万ドル程度とされています。
なぜ「空飛ぶバギー」を試すのか
狙いはヘリコプターの代わりを作ることではありません。車両と航空機の機能を1台にまとめ、これまで地上車両か航空機のどちらかが必要だった任務を、小さな装備でこなせるかを探る点にあります。道路のない地域では車両は地形に縛られ、ヘリコプターは離着陸地点や運用支援を必要とします。SkyRunnerなら、悪路を走り、必要な場所で離陸し、別の場所に降りて再び走ることができます。メーカーも特殊作戦、偵察、潜入・離脱、医療搬送、捜索救難を想定し、担架やEO/IR(電子光学・赤外線)センサーを搭載できるモジュラー構造を特徴に挙げています。
ドローン時代の戦場で価値があるのか
ドローンが部隊や車両の位置を見つけ、道路や拠点も攻撃対象になる戦場では、小型で分散でき、固定インフラへの依存が小さい機動手段の価値が高まる可能性があります。SkyRunnerはこの発想に合致する装備の一つです。
「空飛ぶ装甲車」ではない
一方で限界も大きいです。搭載量は約362kg、飛行速度は約72km/h程度で、武装も防護もありません。メーカーはIFR(計器飛行方式)対応モデルを計画しておらず、強風の日は飛行を避けるよう案内しています(風速15mph=約24km/h超が目安)。低速・低高度で飛ぶパラフォイル機は、ドローンやセンサーに発見されやすいという課題も考えられます。位置づけは、ヘリコプターの代替ではなく、大型機を出すほどでもない小規模任務の補完でしょう。
採用は未定
陸軍がSkyRunnerの採用を決めたわけではありません。調達の有無や今後の試験時期も公表されていません。第18空挺軍団は、2027年4月の「Scarlet Dragon 27-1」と、同年9月にフォート・ドラムで行う大規模演習「Summit Strike」で、今回試した技術の評価を続ける方針ですが、SkyRunnerが含まれるかは明らかではありません。2026年1月にはフォート・ブラッグに「Lt. Gen. James M. Gavin Joint Innovation Outpost」が開設され、企業を交えて新技術を素早く試す体制も整いつつあります。SkyRunnerは、まだ実験段階の特殊な装備にすぎません。それでも今回の試験は、「地上は車両、空は航空機」という従来の区分にとらわれず、道路に縛られず、必要なら空へ抜ける機動力を模索する動きとして注目に値します。