アメリカのバイデン大統領は7月7日、ウクライナへの新たな軍事支援としてクラスター弾の提供を決定した。クラスター弾については以前から要望されていたが、殺傷力が高く、無差別殺戮兵器とされる同兵器への提供は控えていた。ウクライナに提供されるクラスター弾DPICMとはいったいどういった兵器なのだろう。
クラスター弾とは
For no reason, a short primer on DPICM ("Steel Rain"), the U.S.' main tube artillery cluster submunition. pic.twitter.com/XTLlNLP3Mj
— OSINTtechnical (@Osinttechnical) July 6, 2023
クラスター弾またはクラスター爆弾は、複数の爆発性子弾を搭載した兵器 で、主に砲弾や爆弾、ミサイル、ロケット弾で使用される兵器。通常、砲弾やミサイルはそれが一つの大きな爆弾だが、クラスター兵器には数十個の小さな爆弾「子弾」が搭載されている。放たれたクラスター弾は着弾する前に搭載した複数の子弾を空中で散布、それらの子弾は空中で広く展開しながら落下し、着弾と共に爆発する。子弾自体は通常の爆弾よりも小さく、爆薬も少ないので一つ一つの威力は弱いが広範囲に高密度に殺傷性の高い被害を及ぼすことができる。そのため、主に対人用、軽装甲の標的、インフラの破壊などに使用される。戦車などに対しても光学機器に損傷を与える事ができる。クラスター弾は特に塹壕に籠る敵には有効で、高密度にばら撒かれる爆弾を避ける術はない。対人に関して言えばクラスター弾一発で155mm砲弾10発と同じ殺傷率があると言われている。
アメリカが提供を検討するDPICM
アメリカがウクライナに提供を検討しているクラスター弾は155mm、105mm榴弾砲、HIMARSやM270とロケット砲システムで使用可能な「DPICM(Dual-Purpose Improved Conventional Munition)」と呼ばれるクラスター弾になる。 1970年代から1990年代の間に生産された。殺傷半径はそれぞれの単一弾より少なくとも10倍大きい。ウクライナに提供された西側の榴弾砲の主力となる155mm榴弾砲に使用するM483A1砲弾の場合は88個、新しいM864砲弾には72個の子弾が搭載されている。HIMARSやM270で使用される227mmロケット弾M77の場合、その数は644個にもなり、その被害範囲は最大500㎡になる。とりあえず、今回提供が決定したのは155mm榴弾砲用の砲弾になる。射程も最大30km程度と通常弾と変わらず、クラスター弾によって砲弾自体の消費の抑制も期待できる。
デメリット
M483A1 155mm DPICM test footage pic.twitter.com/D7EZoui1nf
— SF Black Flight X (@supermolotok64) July 6, 2023
クラスター弾はターゲットではなくエリアをターゲットとするため、無差別兵器とされ、世界的に使用が憚れる兵器だ。また、子弾が全て起爆するとは限らず、2~6%が不発弾として残る可能性がり、後から進軍した味方部隊や戦後に民間人が不発弾の被害に合う可能性があり、人道的な見地から世界100カ国以上がクラスター弾の使用を禁じている。しかし、アメリカ、ウクライナ、ロシアは禁止条約を締結しておらず、ロシアはウクライナ侵攻当初から民間人の住宅街にクラスター弾を使用して、批判を浴びた。ウクライナも自分の土地にクラスター弾を使うのは憚れるかもしれないが、既にロシア軍によって、多くの地雷とクラスター弾がばら撒かれている。ウクライナとしては戦術的、勝利を優先した形だ。
アメリカもクラスター弾に関しては改良を重ねており、不発率の削減のため、子弾に自爆化機能を付与している。不発の場合、一定時間を過ぎると自爆するといったものだ。ウクライナにはこれら新型のクラスター弾を提供する予定と発表されている。ただ、これも起爆率は完全ではないのと、自爆化に対応した子弾は7億2800万個の在庫のうち、30,990 個 (0.00004% )しかない。あくまで子弾の数なので、これを搭載したクラスター弾の在庫は2000発程度しかないかもしれない。
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