
陸上自衛隊は、防衛能力の基盤強化を目的として、人員へのリスクを最小限に抑えつつ持続的な作戦運用能力を強化するため、2種類の小型無人地上車両(UGV)の性能と運用手順の評価を開始しました。評価対象となっているのは、エストニアのミリレム・ロボティクス社が開発した「THeMIS」と、カナダのラインメタル・カナダ社が開発した「Mission Master SP」です。これらの車両は昨年4月に試験目的で購入が発表されており、今年10月、運用試験の実施が公表されました。どちらのUGVも複数の国で採用実績のある軍用無人車両であり、自衛隊の近代化戦略において重要な役割を果たすことが期待されています。
ミリレム・ロボティクス社製 THeMIS UGV

THeMIS UGVは、戦場における兵士の数を減らすことを目的とした多目的無人地上車両であり、その堅牢性と汎用性は世界各国の軍事演習や実地試験で実証されています。オープンアーキテクチャを採用しているため、ミッションの性質に応じて装備を迅速に換装できる点が最大の特長です。
主要な機能と性能:
- 推進システム: ディーゼルエンジンと発電機、リチウム電池を組み合わせたハイブリッド推進システムにより、最大速度40km/h、最大積載重量1200kgを実現します。稼働時間は最大15時間、バッテリー駆動のみでも1.5時間の運用が可能です。最急勾配は60%まで対応できます。
- 多様な任務対応:
- 輸送任務: 兵士の代わりに重い装備や重火器を運び、兵士の身体的負担を軽減します。
- 負傷者運搬: 担架2台を装着可能で、負傷者を迅速に医療施設まで搬送します。
- 戦闘任務: 機動部隊に直接火力支援を提供することも可能で、歩兵部隊の火力支援としても機能します。7.62mm軽機関銃、12.7mm重機関銃、40mm自動手榴弾発射装置、30mm機関砲、対戦車誘導ミサイルなど、多種多様な兵器を搭載できます。特に、30mm機関砲を搭載するEOS R400S-MK2-D-HD 30mm機関砲遠隔兵器システムは最大射程2km、対戦車誘導ミサイル「ジャベリン」も同様に最大射程2kmです。
- 監視偵察活動: 光学機器を搭載し、最大12km範囲の敵を検出し、4km前後の範囲の敵を捕捉することができます。
- 自爆ドローン搭載モデル(Combatモデル): UVision社の自爆徘徊ドローンHero-120を6機搭載するランチャーを備えています。Hero-120は3.5kgの弾頭を搭載し、最大60分間飛行可能で、広大な攻撃範囲と情報収集・偵察能力を提供します。
- その他: C-UASプラットフォームを搭載した対ドローンモデルや、爆発物処理モデルなど、多種多様な派生型が存在します。
現在、19か国の軍がTHeMIS UGVを採用しており、そのうち9か国がNATO加盟国です。NATOとの連携を深める陸上自衛隊にとって、THeMISは装備の共通性という点で大きなメリットを持つ車両と言えます。さらに、ウクライナにも150両が供与されており、今後の実戦経験を経た改良が期待されています。
ラインメタル・カナダ社製 MissionMaster SP

MissionMaster SPは、ドイツのラインメタル社が開発したMissionMasterシリーズの小型・電動戦術無人地上車(A-UGV)です。前線における部隊の「バディ」として設計され、輸送、監視、CASEVAC(傷病者搬送)、センサー展開、軽武装搭載など、多岐にわたる用途に対応します。自律走行機能(PATH A-Kit)を備え、空中投下や牽引展開も可能であり、米国や英国などで試験および初期配備が進められています。
主要な機能と性能:
- 推進システム: 低シグネチャの電動モーターを搭載しており、静穏性、ステルス性、機敏性が求められるあらゆるシナリオで優れた性能を発揮します。
- サイズと重量: 全長約3.0m、車体重量は約1500kg。
- 速度と積載能力: フル電動駆動で最高速度40km/h、最大積載能力は1000kgです。水陸両用能力も持ち、最高速度6km/hで水上を移動でき、300kgの積載量で3km/hでの水上移動が可能です。
- 自律走行システム: 実績のある自動運転キット「Rheinmetall PATH(A-kit)」を搭載しており、幅広い自動運転とナビゲーション機能を実現します。このシステムはNATO標準の戦闘管理システムと完全に互換性があり、様々な遠隔操作オプションで制御可能です。オペレーターはカメラのフィードを監視したり、武器ステーションを操作したり、プラットフォームをプログラムして目的の場所まで自律的に移動させることができ、50kmの自律走行が可能です。
- モジュール性: 兵装を交換することで、後方支援、監視、火力支援、救助、医療避難、CBRN検出、通信リレーなど、多種多様なミッション要件に対応できます。
- シリーズ展開: MissionMasterシリーズには、SP以外にも、より大きな積載能力と走行能力を持つCXTとXTが存在します。MissionMasterの採用はこれらへの拡張も期待されます。
陸上自衛隊によるこれらの先進的なUGVの評価は、将来の紛争において人員の安全を確保しつつ、作戦遂行能力を向上させるための重要な一歩となります。実戦で実績のあるこれらの無人車両の導入は、自衛隊の防衛能力を飛躍的に強化する可能性を秘めています。