ドイツのショルツ首相は1月25日、自国で開発生産されたレオパルト2戦車のウクライナへの提供を正式に表明した。また、各国が保有するレオパルト2のウクライナへの提供を承認し、既に提供を表明している国の数を合わせると100両に達し、戦車一個旅団規模に相当する。
レオパルト2は攻撃力、守備力、機動力と共に高度な能力をもったバランスの良い戦車で、最強戦車とも言われ各国がこぞって購入。欧州で最も普及している戦車であり、欧州だけで17カ国、延べ2000両があり、高度な西側製戦車ながら、同一戦車で一定数揃えられ、乗組員の訓練と保守管理が容易になることもあり、ウクライナは兼ねてから提供を熱望。ようやく、その願いが通じたわけだ。ドイツを始め、ポーランド、フィンランド、オランダ、ノルウェー、ポルトガルなど、既に複数国が提供を表明しており、その数は100両を超えようとしている。だが、一概にレオパルト2といっても実は各国の戦車が全て同じという訳ではない。レオパルト2は開発から既に40年以上が経過している。時が経てば老朽化、機能も陳腐化してしまうので、その間に幾度もバージョンアップを重ねられており、現在、主に4つのバージョンが運用されている。
レオパルト2A4
レオパルト2で最も生産されたモデルであり、現在でも最も運用されているのがレオパルト2A4だ。レオパルト2自体は冷戦期に西ドイツで開発が始まり1979年に量産が始まった第3世代の主力戦車で、レオパルト2A4は1985年から生産が始まった近代化モデル、その後の近代化モデルもA4をベースに開発されている。主砲の120mm L44滑腔砲はAPFSDS-TとHEAT-MP-Tの2種類の弾薬を発射。合計42発の弾薬を搭載し、27発がドライバーの左側に、15発が砲塔のバッスルの左側に保管されている。弾薬は電動ドアによって戦闘室から分離されており、ロシア製戦車のようなビックリ箱の心配がない。副武装に同軸7.62mm機関銃、ハッチにも7.62mm機関銃が搭載されている。デジタル射撃統制システムとフラットなチタン/タングステンの複合装甲を備えた改良型砲塔を搭載する近代的な戦車になる。自動装填装置は無く、装填手を含めた4人で運用。1500馬力のディーゼルエンジンは最高速度で72km/hで550kmを走行する。
レオパルト2A4についてはノルウェー、フィンランド、スペイン、カナダが提供を表明ないしは検討している。ただ、レオパルト2A4で気がかりなのが、防護力だ。レオパルト2は優れた防護力を持つとは言ったが、既にA4は30年以上前のモデル。最大の運用国であるトルコはシリアでの戦闘にレオパルト2A4を投入しているが、クルド人部隊の携行式対戦車兵器によって多数が破壊されているのが確認されている。
レオパルト2A5
レオパルト2A5は1990年に導入が始まった近代化モデルで主に装甲面が大幅に強化された。特に顕著なのが砲塔だ。A4では垂直直角な砲塔だったが、砲塔前面部にくさび形の空間装甲ボックスを追加、これにより、弾道をそらしたり、前部装甲が貫通されても破片による被害を軽減している。車体前部の装甲も強化されている。その他、砲塔が完全な電子制御になり、車長や砲手の視界も改良されている。ドイツは当初、所有する19両全てのA5をウクライナに提供すると思われたが、これは見送っている。デンマークが数両の提供を検討中。また、スウェーデンがA5を独自に改良したStridsvagn 122を運用している。同戦車は防御面が360度アップグレードされ、射撃管制装置も改良されている。スウェーデンは現在10~12両ほどの提供を検討中だ。
レオパルト2A6
2001年に登場したレオパルト2A6は主にドイツ軍とオランダ軍のために開発された。主な変更点は主砲であり、これまでの120mm L/44滑腔砲から、より砲身の長い120mmL/55 滑腔砲に変更されている。これにより、最大射程は3500mから4000m以上に伸びている。この他、射撃管制装置や通信コマンドシステムも改良されている。ドイツは225両あったレオパルト2A5をA6にアップグレードしており、ドイツ軍が保有する戦車の中で最も多数を占めている。A5のウクライナの提供を見送ったドイツだが、より高度なA6、14両の提供を決めており、その本気度が伺える。オランダはドイツからリースで取得した18両全てをウクライナに提供すると述べているが、リースなので所有権はドイツにあるのが気になるところ。ポルトガルも4両の提供を決めており、三か国合わせると36両になる。
レオパルト2A7
2014年からドイツ軍に配備されたレオパルト2シリーズの最新モデル。主砲には最新の120mmL55A1砲が搭載され、世界で最も威力があるとされる対戦車弾のラインメタル120mmDM53 APFSDS-T徹甲弾を発射でき、装甲貫通力が向上。戦闘射程は最大5,000mまで拡大され。新しい射撃管制装置、第3世代の赤外線カメラと通信手段、戦闘管理システム(BMS)が搭載。地雷保護が改善され、砲塔にモジュラー装甲を追加するなど装甲は強化されている。最新技術の塊であるレオパルト2A7はさすがにウクライナには提供されないと思ったが、デンマークが検討しているという情報がある。
レオパルト2が最終的に何両になるかは分からないが初回分だけで130~140両になるのではと推測されている。ゼレンスキー大統領は300両の戦車を求めており、レオパルト2だけで約半数を占める形だ。