
イギリスとフランスの両国はロシアとウクライナの停戦後に最大3万人の平和維持部隊をウクライナに派遣する計画をしているが、英陸軍には戦闘準備が整った戦車が25両のチャレンジャー2しかない事が分かり、英軍に平和維持部隊が務まるのか不安視されている。
英メディアによれば、イギリスとフランスがロシアとウクライナが停戦に合意した後、ロシアが合意を破り、更なる侵攻を行うのを防ぐため、3万人からなる「再保証部隊(reassurance force)」の創設を計画している。その主な目的は、ウクライナとロシアの間の停戦合意の履行を支援し、ロシアがウクライナの都市、港、重要インフラに対してさらなる攻撃を仕掛けるのを阻止することだ。また、航空防衛と海上防衛に重点を置き、ウクライナを航行する航空機と船舶の商業航行を支援。同国の食料や穀物の輸出にとって極めて重要な黒海の海上貿易の安全を維持することなどがある。地上軍は最小限に抑えられ、最前線に部隊は配備されない。ただ、ロシアが履行を破り、攻撃などを行えば然るべき対処を行う。イギリスはこの3万人の「再保証部隊」の内、最大2万人程度を派遣する用意がある。
戦力不足の陸軍

地上軍は最小限と言えど、地上警備は陸軍の役割になり、ロシアに対する一定の抑止力として少なくとも旅団規模の派遣は必要だろう。しかし、現状、英陸軍には旅団規模でも満足に戦える戦力を持っていないという。インディペンデント紙によれば、英陸軍は213両のチャレンジャー2戦車を保有。ウクライナに14両を供与している。この内、稼働状態にあるのは150両ほどで、この内、148両をチャレンジャー3にアップグレードする事が決まっている。しかし、メンテナンス費用の削減、部品不足、サプライチェーンの崩壊により、実際に戦闘利用可能な戦車の数は過去数十年で大幅に減っている。
英陸軍の王立装甲軍団には3個装甲連隊があり、それぞれ、56両のチャレンジャー2を配備することになっているが、実は長年に渡り、この数を配備することが出来ていない。というのも現状、戦闘準備が整っている車両は20~25両程しかなく、戦車大隊の数にも及ばない。そのため、戦車兵は不足しており、既存の戦車兵は訓練が満足にできておらず、練度不足とされる。しかも、他のNATO加盟国がNATO標準の120mm滑腔砲を採用する主力戦車を配備する中、チャレンジャー2は120mmライフル砲。砲弾の共通性がなく、弾薬の備蓄は本格的な戦闘に突入すれば1週間以上はもたない。しかも、現状、ウクライナに車両を供給しているため、ウクライナに砲弾を供与しなければならない。国内でこの現状なら、ウクライナにも満足に砲弾が提供されていないだろう。チャレンジャー3からはNATO標準の120mm滑腔砲になるので、今更、120mmライフル用の砲弾の量産はできないだろう。NATO加盟国の中では戦車戦力は最弱と言ってもいいかもしれない。

陸軍の主力である戦車がこの状況なので、もちろん他の兵器も散々なありさまだ。王立砲兵隊はかつて100両以上のAS90自走砲を保有していたが、戦車同様、これらの砲も長期にわたる整備不足により廃棄された。かつてAS90連隊を指揮した英国大佐は、一部の砲兵部隊は履帯やエンジンさえなく、鉄くず同然だったと明かした。現在、その数は50両程に半減。さらにウクライナに32両を供与しており、国内にはほとんど戦力が残っていない。そこで、スウェーデンから14両のアーチャー155mm自走砲を購入。これらは既に納入されており、戦力を補填したが、それでも足りない。ドイツと共同開発するRCH 155mm自走砲116両を購入する決定をしており、戦力の増強を図っているが、配備されるのは数年後だ。また、砲弾の備蓄も少なく、ウクライナでは榴弾砲の重要性が再認識され、多用されているが、ロシアと対峙する上で一門あたり一日砲弾200発が必要であり、1か月の戦闘には少なくとも7万5000発の砲弾が必要である事が判明しているが、そんな数の砲弾はもっていない。
イギリスは島国でロシアからも離れ、地上侵攻を受ける事はないので、国内の陸軍が空白となってもさほど影響はないとはいえ、NATOの盟主としては心もとない戦力であり、平和維持部隊として、ロシアの抑止力となりえるのか不安視されている。ウクライナのゼレンスキー大統領や軍事専門家は、抑止力としては10万~15万人規模の平和維持部隊が必要と訴えている。