ロシア軍がウクライナでの戦車の損失を補うために、古いT-62戦車の投入を余儀なくされているとウクライナ国防省は発表しました。T-62は1962年に当時のソ連軍に配備が始まった戦車で、ロシア軍が運用する戦車では最も古いモデルになります。
ウクライナ国防省の発表によれば、ロシア軍はこれまで約1300両の戦車を失っており、これらロシア戦車の損失で確認されていたのはT-64、T-72、T-80、T-90の4つの系統です。これまでウクライナでT-62戦車は確認されていませんでした。しかし、ウクライナ方面へと列車輸送されるT-62の様子が複数投稿されており、これはT-62戦車のウクライナへの投入を意味するものと思われます。
一度は退役を決定した戦車
T-62は1965年にロシア軍に正式配備された主力戦車になり、ロシア軍が現在、実戦配備する戦車としては最も古いモデルになります。T-62は前モデルのT-55を発展開発したモデルで1957年にプロトタイプが登場。当初はT-55と同じ100mmライフル砲を搭載するも、1962年の量産モデルではより強力な115mm滑空砲が搭載。滑空砲を搭載した主力戦車としては初であり、これは当時の米軍の主力戦車であったM48/M60パットンの105mmライフル砲よりも強力でした。1962年から1975年かけて計22,000輌が生産され、これはT-72の25,000輌に次ぐ多さです。北朝鮮などの第三国でのライセンス生産は1989年まで続き、現在も北朝鮮、中東、旧ソ連の国々で運用されています。最近でもアフガニスタン、シリアでの紛争に使用されています。ソ連では1980年代にT-62M、T-62MVと近代化され、ロシアになってからも使用されます。
しかし、半世紀が過ぎた戦車の主砲の発射速度は低く、580馬力のエンジンは非力で、最高速度は50km/hと鈍足、装甲も弱く、ロシア戦車としては標準の自動装填装置も付いていません。新しいT-90A、T-14戦車の開発配備が進む計画があったため、2013年にロシア軍は稼働状態の150輌を含め、約1000輌あったとされる旧式化したT-62の退役を決定します。しかし、2014年のクリミア侵攻による経済制裁で新しい戦車の量産が進まなかったことで、退役は延期され、今なお運用は続いています。2021年には赤外線カメラ、レーザー距離計など新しい電子光学・照準システムが搭載され視界が2000mに拡大、Kontakt-1爆発反応装甲やスラット装甲の追加など防護やエンジンもアップグレードしたモデルが発表されていました。
ロシア軍は約13000両の戦車を保有しており、侵攻前までその内3000弱が稼働配備状態だったとされます。ロシア軍の戦車で最も多いのがT-72戦車になり、今回の戦車の損失でも約7割がT-72になります。T-72は数千両の在庫があるとされますが、今回、T-62が投入されたことから、動くT-72はほぼ出し尽くした可能性があります。