モロッコ、韓国K2戦車導入を検討 エイブラムス保有国が次世代MBTへ転換

ROKA

北アフリカ地域の軍事バランスに、静かだが決定的な変化の兆しが見えている。長年の軍事的ライバルであるアルジェリアと対峙するモロッコが、韓国製の次世代主力戦車「K2ブラックパンサー」の導入を真剣に検討しているという複数の報道が相次いでいるのだ。この動きが特に注目されるのは、モロッコ陸軍がすでに「世界最強戦車」の一つとして名高い米国製M1エイブラムス戦車を主力として運用し、さらに最新鋭モデルの発注まで済ませている点にある。

なぜ、既に西側最高の重戦車を保有・導入しているモロッコが、あえて別系統の新型戦車を求めるのか。これは単なる古い装備の更新や調達先の多角化に留まらない、モロッコの戦車運用思想の根本的な転換と、防衛産業戦略の再設計を意味する動きとして解釈されている。

現在の主力戦車 M1エイブラムス

Royal morocco Army

モロッコは2010年代後半より、米国の対外軍事援助(FMS)枠組みを利用し、M1A1 SA(Situational Awareness)型エイブラムス戦車約200両を取得し、地域における質量両面での戦力優位を確立した。さらに、最新鋭のデジタル技術と防御力を誇るM1A2 SEPv3型162両が発注済みであり、2023年から順次納入が開始されている。これらは、旧型のM60パットン、ロシア製T-72B、パキスタン・中国共同開発の90-II式戦車といった多様な車両群の中で、まさに「決戦兵器」として位置づけられてきた。導入当初、モロッコ軍はエイブラムスの圧倒的な防御力と火力を最大限に評価し、「質でアルジェリアを上回る」ことを目標に掲げ、米国との軍事協力を深化させてきた。特に都市防衛、要塞突破、そして大規模な決戦型戦闘においては、その高い生存性が比類なき抑止力として機能する。

しかし、実戦配備と長期運用が進むにつれて、北アフリカの特殊な環境下でエイブラムス固有の構造的な問題が顕在化し始めた。

  1. 燃費と補給の負担: エイブラムス最大の特徴であるガスタービンエンジンは、高出力と優れた加速性能をもたらすが、その代償として燃料消費量が極めて大きい。特にモロッコの高温・乾燥・砂塵の環境では燃費がさらに悪化し、長距離展開の際には膨大な量の燃料と、それに伴う大規模な補給車両群が必須となる。
  2. 機動性の制約とインフラ負荷: 車重が62トンから67トン級という超重量級である点も深刻な課題だ。モロッコの国土には、山岳地帯、未舗装路、そして軟弱な砂漠地帯が広がり、この重量級車両はしばしば地形による機動制限を受ける。また、橋梁の耐荷重制限や、輸送用トレーラーの確保といった平時の展開・維持コストも無視できないレベルに達している。
  3. 整備と技術の米国依存: 部品供給と高度な整備は米国への依存度が極めて高く、輸出管理政策や政治状況の影響を受けやすいというリスクを抱える。特に近年、米国の外交・輸出政策の予測が付きにくくなっている状況下で、軍事装備の「一本足打法」は国家安全保障上、危険視されるようになった。

結論として、M1エイブラムスは「決戦兵器」としては優秀であるものの、日常的な広域展開、迅速な機動、そして持続的な運用という点においては、モロッコの広大な国土と財政状況にとって「過剰性能」であり、運用コストが重荷になり始めていたのである。

隣国アルジェリアとの対立

モロッコの安全保障戦略を考える上で、隣国アルジェリアとの軍事的競合関係は避けて通れない最大の要因である。アルジェリア陸軍は、ロシア製T-90SA戦車を多数保有しており、さらに次世代のT-14アルマータ戦車の将来的導入にも強い関心を示しているとされている。これらのロシア系戦車は、エイブラムスほどの重装甲ではないが、比較的軽量で高機動性を持ち、長距離機動戦に適した設計思想に基づいている。モロッコとアルジェリアの間で潜在的な戦闘が想定されるのは、都市部よりもむしろ、西サハラ周辺の広大で人の少ない国境地帯である。このような戦場環境では、エイブラムスが強みとする「重装甲による絶対防御」よりも、広域機動性、先制展開能力、そして迅速な戦力集中がより重要視される。この作戦環境を踏まえ、モロッコ軍首脳部は、エイブラムス一辺倒の「重装甲主義」から脱却し、機動性と持続運用性を重視した、よりバランスの取れた戦力構成への転換が合理的であると判断し始めた。

なぜ?韓国製K2ブラックパンサーを検討

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この戦略的転換のニーズに応える形で浮上したのが、韓国のK2ブラックパンサーである。K2は、21世紀の戦車としてゼロから設計され、デジタル化、軽量化、そして乗員を3名に削減する高度な自動化を特徴としている。

特性K2ブラックパンサーM1エイブラムス (参考)モロッコへの適合性
車重約55トン62〜67トン橋梁耐荷重や軟弱地での機動制限を軽減。
エンジンディーゼルエンジンガスタービンエンジン燃費が良好で補給頻度が減り、長距離運用に適応。
乗員数3名 (自動装填装置)4名訓練や維持コスト、人的負担を軽減。
コストエイブラムスより安価高コスト財政的負担を軽減し、調達可能数を増加。
機動性高速機動性・越野性能高出力だが重量級砂漠・乾燥地帯での迅速な展開に最適化。

K2の設計は、まさに砂漠・乾燥地帯での長距離機動戦に最適化された仕様と言える。燃料補給の頻度を減らし、整備負担を比較的軽減しつつ、展開スピードを向上させることができる。K2は、「エイブラムスほどの絶対防御力はないが、必要十分な防御と優れた機動・持続力を両立する」というバランスの取れた設計であり、モロッコの地理的・財政的制約、そして新しい作戦構想と極めて高い親和性を持つ。

しかし、モロッコがK2に関心を示す最大の理由は、単なる性能比較の結果ではない。真の戦略的価値は、韓国の積極的な技術移転と現地生産を認める輸出戦略にある。韓国はすでに、ポーランドに対しK2の派生型に関して共同生産や現地組立を認める契約を締結している。これにより、購入国は単なる「完成品の輸入国」として終わるのではなく、国内に整備拠点や部品生産ラインを確立し、雇用創出防衛産業基盤の育成を同時に実現できる。モロッコが検討しているK2の調達規模は最大400両とも報じられており、この大規模な取引であれば、韓国側が現地生産を認める可能性は非常に高い。一方、米国製エイブラムスは厳格な輸出管理のもとで供給され、技術移転は極めて限定的である。防衛産業の自立技術的な主権を志向するモロッコにとって、韓国の提案するモデルは極めて魅力的な選択肢となる。

K2導入の検討は、政治的にも象徴的な意味を持つ。モロッコは長年、米国の重要な安全保障パートナーであったが、装備調達先を多角化することで、米国依存リスクの低減調達交渉力の向上、そして国際政治変動への耐性強化を図る狙いがある。政治的に比較的ニュートラルで、対外輸出に柔軟な姿勢を取る韓国は、「新しい戦略的パートナー」として最適と見なされている。もし、モロッコがK2を正式に採用すれば、北アフリカ地域で初めて東アジア製の次世代MBTが本格配備されることになり、これは地域の軍拡競争に新たな軸を持ち込むことになる。特にアルジェリア側の兵器調達戦略に大きな影響を与え、ロシアや中国からの対抗策導入を加速させる可能性が高い。

モロッコがK2ブラックパンサーを検討する理由は単純ではない。それは、「重装甲のエイブラムスで戦略的抑止力を維持しつつ、機動性・経済性・産業育成を担う新型MBTを導入する」という、極めて現実的かつ将来志向の戦略的二刀流(ハイ・ロー・ミックス)への転換を意味している。

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