ロシア軍がT-54/55戦車に爆薬を満載して、ウクライナ軍陣地に突っ込ませて、大爆発する映像が撮影されました。
奥の林に向かって単機で突っ込む1両の戦車。ロシア軍のT-54またはT-55戦車とされています。途中、対戦車地雷を踏み爆発、足が止まります。林の中にはウクライナ軍の陣地があり、側面を見せる形で止まった戦車は対戦車ロケットのRPGによってとどめを刺されます。その後、戦車は爆発しますが、通常の戦車の爆発とは思えない大爆発を起こします。なぜなら、この戦車にはTNT火薬3.5トン、重量100kgの空中投下爆弾FAB‐100、5発が搭載された戦車爆弾だったからです。
ロシア軍は古い戦車に砲弾ではなく、大量の爆薬を搭載して戦車爆弾として運用しました。昨年2月にウクライナ侵攻が始まって、初めてみる戦法です。使われた戦車は最近投入された1950年代に開発生産された古いT-54/55戦車です。いわゆる第一世代戦車と言われるもので、骨董品ですが、戦車が不足するロシア軍はこれを倉庫から呼び戻していました。てっきり、これを戦車として運用すると思っていましたが、まさか戦車爆弾として使用するとは思いもよりませんでした。
イスラム国と同じ戦法
これは、イスラム国がシリアやイラクで多用した自動車に大量の爆弾を搭載して、敵陣地に突っ込ませる自動車爆弾と同じ戦法です。イスラム国は生身の人間に運転させ、一種の誘導兵器のようにしていたので自爆車両、自爆テロとも言われていました。ロシア軍の戦車爆弾は一応、遠隔操作のようです。ウクライナ軍陣地の数百m手前からアクセルを踏んで戦車を始動させると、乗員は戦車から退避。無人となった車両は無線による遠隔操作でウクライナ軍陣地にただ、ひたすら向かいます。しかし、戦車の軌跡を見る限り真っすぐで、本陣と思しきところよりずれているので、おそらく細かい操作はできないと思われます。
戦車を使用するのはもったいないようにも思えますが、厚い装甲で覆われた戦車は理にかなっているかもしれません。装甲がない自動車爆弾と違い、軽火器では止められず、しかも無人ならば、脚を破壊しない限りは向かってきます。今回は幸い、対戦車地雷によって足を止めることができましたが、そうでなければ、陣地に突っ込んできたところで遠隔操作によって爆発したかもしれません。まさかウクライナ軍も戦車が無人で大量の爆薬を積んだ戦車爆弾だとは思っていなかったでしょう。衝撃波を見て分かるように爆発の威力は甚大で、手前で止めたものの塹壕の外にいた兵は被害を受けた可能性があります。
数十年間保管されたT-54/55を再整備して、現代戦に適合できるよう改修、戦力化させるのは容易ではありませんが、走行できるようにするだけであれば、時間もコストもかからないでしょう。ロシア軍は1960年代に製造されたMT-LB装甲牽引車でも同じことを行っているとされており、今後、戦車爆弾の戦法が増えるかもしれません。