ロシア戦車が「皇帝のテント」を装備 新型「Tsar Tent」でドローン攻撃に対抗

from SNS

ロシア軍の戦車に、これまでとは一線を画す大型の対ドローン防護構造が登場している。英語圏で「皇帝のテント」を意味する「Tsar Tent」と呼ばれるこの装備は、砲塔上部を大きく覆う金属製の防護構造で、ウクライナ戦争で急速に進化してきた「コープケージ」の最新形態の一つとみられる。

2026年9月12日、ロシアの国営軍需企業ロステックは、傘下のUralvagonzavod(UVZ)がT-90M「プルィリフ」とT-72B3Mの新たなロットをロシア軍に引き渡したと発表した。同社は前線からの意見・要望を踏まえた「全方位型の改良された防護」を施し、とりわけ無人航空機対策を重視したと説明している。海外で「Tsar Tent」と呼ばれる特徴的な装備は、この車両に搭載されているものだ。なお「Tsar Tent」はロシア軍の公式名称ではなく、海外メディアが用いる通称である点には注意したい。

巨大化した「コープケージ」

from SNS

Tsar Tentは、鋼製ロッドやゴム部材、ワイヤー状の部材を組み合わせた大型ケージ構造で、砲塔上部を広い範囲で覆う。ロシア軍は2022年の侵攻以前から、砲塔上部に金属格子を取り付ける「コープケージ」改造を進めており、2020年には国境付近の演習ですでに類似の防護構造を備えた車両が確認されていた。当初は上方から攻撃する対戦車ミサイルへの対策との見方もあったが、侵攻後はFPVドローンを使った攻撃戦術が急速に発達し、防護構造は明確にドローン対策として発展していった。

ただし初期のコープケージには課題があった。防護構造を大型化するほど、砲塔の旋回や乗員の視界、ハッチの使用など、本来の戦闘能力や運用性が損なわれやすかったのだ。Tsar Tentはこうした反省を踏まえ、乗員の視界確保と砲塔旋回の両立を意識した構造になっているとみられる。鋼製ロッドやケーブル類は、接近するドローンを弾き飛ばす、あるいは破壊することを狙ったものとされる。

T-90MとT-72B3Mは「多層防御」へ

重要なのは、Tsar Tentだけで戦車を守ろうとしているわけではない点だ。その下にはT-90M・T-72B3Mが従来から装備する爆発反応装甲(ERA)「Kontakt」や「Relikt」が配置されている。さらにエンジンデッキにも追加防護が施され、成形炸薬弾頭などの攻撃から車体後部の比較的脆弱な部分を守る狙いがあるとみられる。大型対ドローン防護構造、ERA、エンジン区画の追加防護、電子戦装置、アクティブ防護システムを組み合わせる「多層防御」路線が鮮明になっている。

「1機防ぐ」から「何度も耐える」へ

ウクライナではFPVドローンが大量投入され、1両の戦車に複数回の攻撃が加えられるケースも珍しくない。そのため戦車側に求められているのは、1機のドローンを確実に撃墜することだけではない。1機目の攻撃を防ぎ、2機目・3機目の攻撃にも耐え、その間に移動して任務を継続する――こうした「何度攻撃されても戦場に残り続ける能力」、いわゆる「staying power」を高めることが、現在の戦車防護における中心的なテーマになっているとみられる。

Arena-Mとの組み合わせも進む

さらに注目されるのが、アクティブ防護システム「Arena-M」との組み合わせだ。Arena-Mは接近する脅威を検知し、迎撃用弾薬を発射して車両を守るハードキル型のシステムである。2026年7月末に公開された映像について、防衛専門機関Janesは、ロシア軍T-72B3A(車体番号133)が接近するFPVドローンに対しArena-Mとみられる迎撃弾を発射した可能性が高いと分析した。爆発の向きが上方であることから、ドローンの命中ではなく迎撃弾の発射によるものと推定されている。ただしこの戦車も、その後別のFPVドローンによって撃破されたとみられる。なお、Arena-Mの実戦性能には疑義も示されている。ロシア側の軍事専門家からも、低速で飛行する小型ドローンをレーダーが十分に探知できるかについて懐疑的な見方が出ており、実際に迎撃へ失敗し、別の事例でFPVドローンに撃破されたケースも他メディアで報じられている。アクティブ防護システムがドローン攻撃への有力な対抗手段となり得る一方、それだけで戦車を無敵にできるわけではないことを示す事例といえる。

今後は、Arena-Mと小型化したTsar Tentを組み合わせる車両と、フルサイズのTsar TentにArena-M用の配線を施す車両という、複数の構成が検討されているという。また、Arena-Mの迎撃弾搭載数は現在の12発から、2027年第1四半期までに36発へ増加させる計画が報じられている。

「亀戦車」「ハリネズミ」からTsar Tentへ

ロシア軍の対ドローン戦車は、ここ数年で急速に変化してきた。侵攻初期には簡易なコープケージが多く見られ、その後、戦車全体を覆う「Turtle Tank(亀戦車)」や、密集したワイヤーを使う「Hedgehog(ハリネズミ)」まで登場した。これらの現地改造は一定の防護効果を発揮した一方、砲塔旋回や視界を犠牲にするケースもあった。Tsar Tentは、こうした試行錯誤を経て「防護力」と「戦車としての使いやすさ」の両立を目指した装備であり、工場出荷段階から標準装備されるようになった点も重要だ。応急改修ではなく、メーカーが設計・製造段階からドローンの脅威を前提とする段階へ移行したことを意味している。

それでも「装甲を厚くすれば解決」ではない

もっとも、Tsar TentやArena-Mの登場をもって、ロシアがドローン問題を解決したと見るのは早計だ。地雷などで機動力を失えば、防護構造の有無にかかわらずドローン攻撃の危険性は高まる。単独行動する戦車は、ドローンに加え砲兵や対戦車兵器、偵察・監視システムなど複数の脅威にもさらされる。戦車の生存性は装甲や電子戦装置だけで決まるものではなく、電子戦・航空防衛・ISR・砲兵・歩兵を含む「戦場全体」の組み合わせによって左右される。

ロシア軍が量産戦車の設計段階からTsar Tentのような防護構造を組み込み始めたことは、戦車が時代遅れになったことを意味しない。むしろ逆で、ドローンが戦場の中心的な脅威になったことで、戦車そのものがドローン時代に適応しようとしている証といえるだろう。

ロシア戦車が「皇帝のテント」を装備 新型「Tsar Tent」でドローン攻撃に対抗
最新情報をチェックしよう!
>戦車の情報を中心に発信するワールドタンクニュース

戦車の情報を中心に発信するワールドタンクニュース

戦車、戦闘車、装甲車といった世界の軍の地上車両のニュース情報を発信します。

CTR IMG