台湾(中華民国)国防部は、アメリカから購入したM1A2Tエイブラムス戦車を初公開し、射撃演習を行う様子をライブ配信した。砲弾展示では世界で最も強力な対戦車砲弾「劣化ウラン弾」の取得も公表された。
2025年7月10日、台湾国防部は「M1A2Tエイブラムス戦車代替実弾射撃訓練」を実施し、昨年12月に米国から導入した最新鋭戦車M1A2Tエイブラムスの訓練の様子を初めてメディアに公開した。これは、台湾陸軍の戦闘能力向上に向けた重要な一歩であり、国内外にその強力な火力を示す機会となった。
公開された訓練は、戦場における対戦車戦を想定し、目標に向けて19発の「APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)弾」が発射された。そのすべてが目標に命中し、M1A2Tエイブラムス戦車の高い命中精度と、台湾陸軍の練度の高さが証明された。この成果は、台湾陸軍の新装備と戦闘能力向上の具体的な証左として、関係者だけでなく国民にも大きな期待を抱かせた。
さらに、訓練の様子はライブ配信も行われ、国民に対して新型戦車の強力な火力が余すところなく披露された。これは、国防への国民の理解と支持を深める狙いがあったと見られ、対中国脅威が高まる中で、国民の国防意識を高める上でも重要な意味を持つ。
劣化ウラン弾M829A1を取得
訓練と合わせて公開された砲弾展示では、特に注目を集めたのが「M829A1」の紹介であった。M829は、M1エイブラムス戦車(A1以降)が搭載するM256 120mm戦車砲向けのAPFSDS弾であり、弾体には劣化ウランが用いられている。これまで公表されていなかった劣化ウラン弾の取得は、軍事専門家や一般市民に大きな衝撃を与えた。
劣化ウランは、非常に重く、鉛の約1.7倍の密度を誇る。この高い密度と運動エネルギーにより、劣化ウラン弾は優れた貫通力を持ち、世界最強の対戦車弾の一つとされている。M829A1の最大有効射程は約3,000mとされ、試験では最大670mmの貫徹力を有すると評価されている。具体的なデータとしては、距離1,000mで620mm、2,000mで570mm、4,000mにおいても460mmの装甲貫徹能力を持つとされる。湾岸戦争では、イラク軍のT-72戦車の正面装甲を貫通し、一撃で撃破した実績がその脅威的な性能を物語っている。今回の劣化ウラン弾の取得は、台湾がエイブラムス戦車の最大限の能力を引き出し、中国軍の主力戦車に対抗しうる強力な抑止力を手に入れたことを示唆している。ちなみに米軍のM1エイブラムス戦車には劣化ウラン装甲が用いられているが、輸出用では劣化ウラン装甲は取り除かれる。
台湾は2019年、米国と108両のM1A2エイブラムス戦車とM88A2装甲回収車を購入する総額22億ドルの契約を締結した。この大規模な兵器調達は、台湾の国防力強化に対する強い意志の表れであり、米国からの全面的な支援を示すものであった。最初のバッチとして、M1A2エイブラムス戦車38両とM88A2装甲回収車4両が2024年12月に納入された。現在、第2バッチとなるエイブラムス42両とM88A2装甲回収車4両が海上輸送中で、2025年7月末までに台湾に到着する予定だ。そして、最後の28両は2026年初めに納入される予定となっている。
合計108両のエイブラムス戦車のうち、10両は訓練用となり、残りは584装甲旅団と269機械化歩兵旅団に配備される計画だ。M1A2Tエイブラムス戦車の配備に伴い、国産の第2.5世代主力戦車であるCM-11ブレイブタイガーと、M48パットンの台湾バージョンであるCM-12は順次退役し、予備役として保管されることとなる。これにより、台湾陸軍の戦車部隊の近代化が図られる。
強力な火力と装甲を併せ持つM1A2Tエイブラムス戦車は、台湾国防において「最後の盾」として位置づけられている。中国軍による台湾上陸作戦を阻止し、特に台北を含む北部防衛の切り札として、その能力に大きな期待が寄せられている。しかし、エイブラムス戦車は70トン近い重量を誇るため、狭く山岳地帯が多い台湾の地理においては運用上の制限があるとの指摘も存在する。例えば、老朽化した橋梁の耐荷重性や、道路の幅員制限などが挙げられ、戦略的な配置や移動に課題を抱える可能性がある。また、それに伴う補給・維持面の負担も大きな課題として認識されている。これらの重量級装備の運用には、インフラ整備や兵站体制の強化が不可欠となる。
さらに、ウクライナ戦争において、ドローンに対する戦車の脆弱性が露呈したことは、台湾国防部にとっても重要な教訓となっている。エイブラムス戦車も例外ではなく、対ドローン装甲の追加は不可欠であるとされている。台湾も独自にドローン対策技術の開発と、それを既存の兵器システムに統合する運用を進める意向を表明しており、多層的な防衛体制の構築を目指している。
M1A2Tエイブラムス戦車の導入と実弾射撃訓練の公開は、台湾の国防力強化に向けた大きな節目である。その強力な火力と高い防護力は、中国からの脅威に対する強力な抑止力となることが期待される一方で、地理的制約や新たな脅威への対応といった課題も浮き彫りになった。台湾は、これらの課題を克服し、より堅牢な国防体制を構築することで、国家の安全保障を確保していくこととなる。