イギリスメディアのSkyNewsは9日、イギリス政府がウクライナへの追加軍事支援としてチャレンジャー2主力戦車の提供を検討していると報じました。
SkyNewsは、英陸軍のチャレンジャー2主力戦車の一部をウクライナ軍に譲渡するための協議が数週間続いていると、事情に詳しい西側の関係者の話として伝えました。ウクライナの関係者も「戦車を提供するよう促すだろう」と述べています。別の情報筋の話として、英国が約10台のチャレンジャー2戦車を提供する可能性があると伝えています。スナク政権からそのような情報は開示されていませんが、もしゴーサインが出た場合、イギリスはウクライナ軍への西側製の主力戦車の引き渡しに同意する最初の国となります。
79両が削減予定のチャレンジャー2
英陸軍の主力戦車（MBT）であるチャレンジャー2戦車はイギリスのヴィッカース・ディフェンス・システムズ（現：BAEシステムズ）によって開発された第三世代主力戦車です。1994年7月に最初の車両が納入され、2002年までに408輌が英陸軍に納入されています。古いもので30年近く、もっとも新しい車両でも約20年を経ていますが、実はこの間に目だった近代化改修は行われていません。各国が主力戦車を第3.5世代、第4世代に移行するなか、チャレンジャー2は他の第3世代戦車と比べても能力が劣るとされており、特に最大速度56km/hは他のMBTが平均70km/h前後なのと比べる鈍足で、致命的な欠点を抱えています。更に120mm滑腔砲が主流の今、チャレンジャー2の主砲は120mmライフル砲で、既に砲弾の生産は終わっている上にNATO加盟国間での互換性がありません。ただ、装甲に関しては優秀とされ、有名な逸話として2003年のイラク戦争で、1両のチャレンジャー2が近距離から計14発のRPG対戦車ロケットランチャーと対戦車ミサイルMILANの攻撃を受けるも、乗員は無事で、大破することなく、その後修理され、6時間後には戦線に復帰。2006年にはRPG-29のタンデム弾によって正面装甲を貫通されながらも、2.4kmを走行して基地まで帰還。ドライバーは両足を切断する重傷を負いましたが、4人の乗員に死者はいませんでした。
Photo British Armyイギリス国防大臣のベン・ウォレスは英国のBAESystemsとドイツのRheinmetallAGとの合併企業で軍用車メーカーのRheinmetall BAE Systems Land（RBSL）[…]
とはいえ、射撃管制装置、夜間戦闘などの戦闘能力は他の西側戦車より劣っており、イギリスは2021年にようやく重い腰を上げ、チャレンジャー2をアップグレードするチャレンジャー3の開発を決定します。それに伴い運用中の227輌あるチャレンジャー2の削減も決定。チャレンジャー3にアップグレードされるのは148輌のみになり、残りの79輌は削減される見込みです。つまり、削減対象だった車両であれば、ウクライナに提供しても英陸軍の戦力低下にはつながりません。NATO標準の主砲を搭載していないチャレンジャー2はドイツのレオパルト2と違い、引き取り手もいないと思われるので、ウクライナへの提供は都合がよいのかもしれません。
チャレンジャー２は既にポーランドに展開
Polish Army東ヨーロッパの防衛力を高めるために送られたイギリス陸軍のチャレンジャー2戦車14両が先日、ポーランドに到着し、ポーランド陸軍に統合されたとポーランド陸軍が発表しました。[adcode]Dobi[…]
英陸軍は昨年7月に東ヨーロッパの防衛力を高めるためにチャレンジャー2戦車14両をウクライナの隣国ポーランドに移送、ポーランド軍に統合しています。つまり、直ぐにでもウクライナにチャレンジャー2を提供できる状態にあります。もしかしたら既にポーランドでウクライナ兵に訓練を行っている可能性もあります。その他、英国内にも数万人のウクライナ兵を受け入れ、訓練を行っており、提供への土壌は整っています。
アメリカがブラッドレー歩兵戦闘車、ドイツがマルダー歩兵戦闘車、フランスがAMX-10RC装甲戦闘車の提供を決定する中、同じNATO主要国であるイギリスが何も戦闘車両の提供を表明しないわけにはいかないという面子的な事情もあるかもしれませんが、イギリスが戦車提供を決断すれば、欧州に2000両あるとされるレオパルト2の提供の布石になるかもしれません。
UK considering supplying Ukraine with Challenger 2 tanks to fight Russian forces