
2025年、アメリカ陸軍は「陸軍変革イニシアティブ(ATI)」の一環として、複数の兵器プログラムの調達中止及び廃止を発表した。本改革は、ドローン、人工知能(AI)、長距離精密火力等の新技術への投資を重点的に行い、将来における高強度戦闘に備えることを目的とするものである。2025年に調達中止又は廃止が発表された主要な兵器プログラムの一覧を紹介する。
M10 Booker

M10ブッカーは、2024年4月に最初の車両が陸軍に納入された、米陸軍にとって20年ぶりの新型戦闘車両であった。当初、2025年夏頃には第82空挺師団に最初の運用中隊が編成される予定であったが、2025年5月5日、陸軍は正式に開発プログラムの中止と導入のキャンセルを発表した。本車両は、空輸および空中投下可能な機動戦闘車として開発されたが、最大42トンという重量のため、C-130輸送機への搭載は不可能であり、2両搭載予定であったC-17輸送機にも1両しか搭載できず、空中投下も実現しないことが判明した。結果として、機動力が不足し、防護力および火力も不十分であると評価され、「中途半端な装甲車両」という評価を受けるに至った。504両の生産が予定されていたが、既に80両が陸軍に納入されていた。
TOWミサイルシステム

米陸軍は、TOWミサイルの新規調達を中止する旨を発表した。TOWは1970年より配備が開始された発射管式、光学追跡式、有線誘導式の対戦車ミサイルシステム(ATGM)であり、主に軽装甲ユニットや攻撃ヘリコプターに搭載されている。第3世代戦車の装甲を貫徹する能力を有し、冷戦時代には対ソ連戦車兵器として、自衛隊を含む西側諸国において広く採用され、現在も主要なATGMの一つとして運用されている。最新世代のTOWは、有線誘導に代えて無線データリンクを実装している。TOWの有効射程距離は最大3,750m、最新のTOW 2Bでは4,500mであるが、交戦距離が延伸した現代戦においては、これらの有効射程距離は短く、飛翔速度も遅く、かつ、目標を継続的に捕捉する必要があるため、射手を危険に晒すという課題が存在する。現在、後継として射程10kmのCCMS-Hの開発が推進されている。
RCV

ロボット戦闘車両(RCV)は、無人地上戦闘車両の開発を目的としたプログラムであり、4つのプロトタイプが開発された。Textron社のRipsaw M3が有力候補とされていたものの、ソフトウェア開発等において困難に直面した。また、数百万ドルを要するRCVは、比較的安価なドローン攻撃に対して脆弱であるという意見も存在した。結果として、米国防省が進める予算削減の対象となり、本プログラムは中止が決定された。
ストライカー装甲車

ジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ社によって開発・製造されたストライカーは、2002年よりアメリカ陸軍において運用されている多用途装輪装甲車シリーズであり、兵員の輸送、偵察、火力支援といった多岐にわたる任務に対応するよう設計されている。イラクおよびアフガニスタンでの作戦に投入されたものの、即席爆発装置(IED)に対する脆弱性が指摘された。この問題に対し、追加装甲を施し、防護力を強化する措置が講じられたが、結果として重量増加を招き、空輸能力および機動性が低下した。ストライカーは2014年に生産が終了していたが、2024年6月に生産再開および追加発注がなされたが、今回、新規調達は中止されることとなった。これまでに4,900両が生産され、そのうち4,466両がアメリカ陸軍に納入されており、多数の在庫を抱えている状況である。
HMMWV/Humvee

ハンヴィーは1989年より運用されているが、近年の戦闘環境の変遷及び技術の進展に伴い、より高性能かつ装甲化された車両への更新が進められてきた。JLTV、MRAP等の装甲化された新型車両への段階的な更新が実施されたものの、依然としてハンヴィーは有用な車両として調達が行われていた。しかしながら、現在5万5000台が運用されており、過剰在庫と判断されたため、新規調達は中止された。
JLTV

JLTVは、ハンヴィーの後継として、2018年より本格配備が開始された軽戦術車両である。イラク及びアフガニスタンにおける即席爆発装置(IED)への対策を目的として設計・開発された経緯を持つが、近年、戦略的焦点が国家間競争や高強度陸上戦闘へと推移する中で、その必要性については再評価が行われ、結果として新規調達が中止されるに至った。米陸軍は合計4万9000台を発注していたものの、そのうち約半数の2万台が既に受領されており、残りの2万台以上については契約が解除される運びとなる。
AH‑64Dアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリコプター

陸軍は保有する91機のAH-64Dアパッチ・ロングボウを全て退役させ、AH-64アパッチ攻撃ヘリコプター部隊を最新型のAH-64Eアパッチ・ガーディアンに全面的に更新する。1991年に導入されたAH-64Dは運用開始から30年以上が経過し、老朽化が顕著である。2011年には近代化改修型のAH-64Eが登場し、順次更新が進められてきた。AH-64Dの2025年度における飛行時間当たりの平均運用コストは10,228ドルであり、これは陸軍のヘリコプターの中で最も高額である。対照的に、AH-64Eの飛行コストは1時間あたり5,494ドルと約半分に抑えられており、経済性に優れる。AH-64Eは最新式のパイロットナイトビジョンセンサーとMUM-T(Manned Unmanned Teaming)と呼ばれるデータリンクシステムを搭載しており、無人航空機(UAV)とのデータリンクを通じて、UAVから情報を受信したり、攻撃指示を出すことが可能である。その他、装甲の強化、レーダー性能の向上、より高高度での運用能力の獲得など、全体的な性能向上が図られている。