
陸上自衛隊は、老朽化した軽装甲機動車の後継として、民生用の車両を防弾化して導入することを検討していると報じられました。具体的には、トヨタ自動車の「ランドクルーザー」2車種と、いすゞ自動車の「D-MAX」の計3車種を調達し、評価・検討を進める方針とされています。この動きは、既存の軽装甲機動車(LAV)の老朽化が深刻な状況にあり、新たな車両の取得が喫緊の課題となっていることを示しています。
陸上自衛隊には現在、約1,800台の軽装甲機動車(LAV)が配備されていますが、その約8割が既に耐用年数を超過していると指摘されています。防衛省は以前から後継車両の取得を検討していましたが、LAVを製造していた小松製作所が採算性の問題から防衛事業から撤退。海外製車両の導入も検討されましたが、コストが見合わないため再検討を余儀なくされていました。こうした経緯を経て、国内メーカーの民生用車両を改良し、装甲・軍用化するという計画に至ったのです。
世界各国では、民生用車両を改良して軍用車として運用する事例が数多く見られます。特に日本車は、その高い信頼性、部品入手の容易さによる整備性、過酷な砂漠や山岳地帯でも安定して稼働する耐久性・走破性、そして装甲キットや武器架台の取り付けが比較的容易な汎用性から、非常に高い人気を誇っています。多くの国の軍隊で採用されており、中でもトヨタ車は特に好まれています。ここでは、そうした事例をいくつかご紹介します。
チェコ陸軍におけるトヨタ・ハイラックスの採用
チェコ陸軍は、老朽化したUAZ 469とランドローバー・ディフェンダーの後継として、新型トヨタ・ハイラックスを合計1,200台導入しています。2024年から配備が開始されたこれらの車両は、装甲化されておらず、軍用塗装と銃座の設置のみが変更点です。戦闘車両としては使用されず、主な用途は人員と物資の輸送に限定されています。この事例は、日本車の堅牢性と信頼性が、非戦闘用途においても高く評価されていることを示しています。
ウクライナ軍における日本車の軍用転用
ロシアの侵攻を受けるウクライナ軍は、少ない戦力を補うために日本車を軍用車として積極的に採用しています。ウクライナの防衛企業UkrArmoTechは、トヨタのランドクルーザーLC79を基盤として開発した装甲車両「UAT-TISA」をウクライナ軍に納入しています。この車両はNATOのSTANAG 4569レベル1に準拠した装甲強度を有し、7.62×51mm弾や155mm砲弾の破片から乗員を保護します。内装には対破片ライナーが使用され、耐地雷性能も強化されており、車体下部は3kg爆薬の爆発に耐えうる設計となっています。さらに、装甲カプセル構造により乗員がエンジンや燃料タンクから隔離され、安全性が向上しています。その他、ルーフには防護シールド付きの回転式機関銃マウント、夜間走行用の特殊ヘッドライト(ライトマスキングモード)、ランフラットタイヤが装備されています。オプションとして、夜間視認用カメラ、電子戦装置、衛星ナビゲーション、VHF無線機の追加が可能であり、兵員輸送、偵察、物資輸送、電子戦など、任務に応じた装備の追加が容易となっています。この事例は、民生用車両が高度な軍事要求に応えるべく大幅に改良され、実戦投入されていることを示しています。
UAEのHarrow Security Vehiclesによる装甲車開発

UAEに拠点を置く「Harrow Security Vehicles」は、主にトヨタのランドクルーザーシリーズをベースに装甲車を開発する専門企業です。各国の正規軍、平和維持部隊、法執行機関に車両を提供しており、高い評価を得ています。彼らが開発した軽装甲兵員輸送車TYGORは、トヨタ・ランドクルーザー79シリーズのシャーシをベースにしており、運転手と車長に加え最大6名の兵士を乗せることができます。軽量で高強度の装甲板を車体側面4面とルーフを採用し、軍用グレードの脅威にも耐えうる強度を備えています。床は小型のIED(即席爆発装置)や手榴弾からの防御力を備え、V字型ハル設計は爆発による衝撃を軽減し、軍用レベルの脅威に耐えます。防弾ガラスは厚さ39mmで、スチールフレーム内でしっかりと固定されています。ルーフにはシールド付き360度回転銃座の他、遠隔操作兵器ステーションも搭載可能。7.62mm機関銃、12.7mm機関銃を搭載できます。同社は他にもトヨタのレクサスやハイエースを装甲化した車両を開発しています。この例は、特定の企業が日本車のプラットフォームを専門的に軍用化している実態を示しています。
カナダのロシェル社によるCaptain APCの開発

カナダに拠点を置くロシェル社は、ランドクルーザー70シリーズのシャーシをベースに構築した装甲兵員輸送車Captain APCを開発しています。この車両はNATO基準のSTANAG 4569レベル1相当の弾道防護と、STANAG 4569レベル2相当の爆風防護を備えています。V字型のモノコックカプセル構造を採用することで、耐久性と積載量を向上させています。ウクライナ軍にも供与されており、既に実戦を経験しているとされています。マニュアルトランスミッションとオートマチックトランスミッションの両方、右ハンドルと左ハンドルの2タイプが用意されており、世界市場を視野に入れた設計となっています。
これらの高度に装甲化された車両に加え、「テクニカル」と呼ばれる簡易なカスタマイズで武装化する形で、日本車、特にランドクルーザーやハイラックスが世界中で広範に使用されています。これは、日本車の頑丈さと信頼性が、正規軍だけでなく、非正規武装勢力など多様なアクターによっても高く評価され、軍事的な用途に転用されている現実を浮き彫りにしています。
陸上自衛隊が民生用車両の採用を検討している背景には、既存の装備の老朽化と、新たな調達におけるコスト効率および国内産業の活用という複数の要因が複合的に絡み合っています。世界中で日本車が軍用車両のベースとして活用されている実績は、陸上自衛隊の検討にとっても重要な参考となるでしょう。