1960年代にソ連で開発された防空兵器「シルカ自走式高射機関砲」の近代化が各国で進んでいる。対航空機用に開発された同兵器だが、他の対空自走砲同様、現代の戦闘機には全く通用しなくなっていた。しかし、対ドローン兵器として再び、需要が高まっている。
アゼルバイジャンは、新たな脅威に効果的に対処するため、老朽化した軍事兵器と装備の大幅なアップグレードを開始した。その一つがソ連製のZSU-23-4シルカ自走式高射機関砲の近代化改修だ。アゼルバイジャンのSumgait Technologies Park社とイスラエルの軍需企業Elbit Systems社、およびチェコのCSG Defense社と協力して行われた近代化プロジェクトになり、9月末にアゼルバイジャンの首都バクーで開催された防衛展示会「ADEX 2024防衛博覧会」で発表された。
改良の目玉が新しい回転式レーダーステーションになり、最大20km先にある100個のターゲットを同時に追跡できる能力を備える。レーダーは20kmで1m²、10kmで0.1 m²、7kmで0.01 m²のレーダー断面積を持つターゲットを検出でき、1m²のターゲットの場合は15km、0.1m²の場合は7km、0.01m²の場合は4 kmの範囲内で最大100個まで同時に追跡できる。0.01m²は100cm2、つまり、一辺が10cmの対象になり、FPVドローンといった小型ドローンも検知が可能なレーダーになり、対ドローンを意識している事が伺える。この他ドローンに対抗するための電子監視ステーションも追加されている。武装のAZP-85 23mm 4連装機関砲に変更はないが、目標を正確に攻撃するために必要な偏向を計算する新しいデジタル射撃管制システムが搭載され、車両の全体的な戦闘効率が向上している。また、シルカは地上目標への攻撃にも使用されることもあり、目視による目標検出のために、エルビットシステムズ社の COAPS-L 電気光学システムを新たに搭載。GPS測位に基づく最新のナビゲーションシステムも導入された。補助動力の古いガスタービンエンジンは新しいロンバルディーニLDW1404ディーゼルエンジンに置き換えられた。改修はこれで完了ではなく、今後、アップグレードが進めば短距離対空ミサイルが搭載される予定だ。
インド軍もシルカを改良
インド陸軍も改良したシルカを発表している。インドの防衛電子企業のバーラト・エレクトロニクス・リミテッド(BEL)によって行われ、3D平面アクティブフェーズドアレイソリッドステートレーダーと、昼夜を問わず標的の探知、捕捉、追跡が可能な電気光学射撃管制システムを新たに搭載。電子ビームステアリングおよび追跡スキャン (TWS) 検索機能でアップグレードされ、単一ターゲットおよび複数ターゲットの追跡が向上。これらのアップグレードにより、車両の移動中や停止中に関わらず、高速で移動する標的の迅速な捕捉、照準と発射体の弾道の決定、標的への砲の迅速な照準と射撃など、さまざまな操作段階を実行できるとBELは述べている。また、電子対抗手段機能も装備されている。これはいわゆる電子妨害装置になり、対ドローンを念頭に置いたものだ。機関砲による物理的な攻撃と電子妨害による、いわゆる「ハイブリッド対ドローンシステム」により、ドローンのスォーム攻撃にも対抗できるとインド陸軍は述べている。
ZSU-23-4シルカ
ZSU-23-4シルカは、1960年代にソ連で開発された自走対空砲システム。履帯式のプラットフォーム上に4門の23mm機関砲を搭載し、機甲師団の防空を担う兵器として開発された。武装のAZP-85 23mm 4連装機関砲は毎分3400発の高い発射速度で高度2.5km先の空中目標を攻撃できる。主な任務は防空だが、1.8km先の軽装甲車両に対しても有効で、地上攻撃にも使用されている。砲塔後部に搭載されたRPK-2レーダーは、捜索、探知、自動追尾、目標までの距離と角度位置の測定に使用され、最大探知距離は20km。車体はPT-76水陸両用軽戦車の部品を使用したGM-575装軌式装甲車シャーシをベースにしており、最高速度は50km/h、最大装甲距離は450kmになる。
しかし、戦闘機の高速化、高高度化により、シルカは防空兵器として通用しなくなり、近年は主に近接火力支援兵器として使用されていた。しかし、防空目的に開発された兵器で最前線に出る事を想定しておらず、前面装甲は10mmと装甲が薄く、2000年以降、シルカはすたれていく兵器だった。しかし、ドローンの脅威が高まった事で、高い発射速度を誇る対空自走砲が見直されており、ウクライナで対ドローン兵器として活躍するドイツのゲパルト同様、対ドローン兵器として脚光を浴びている。