間近に迫るとされるイスラエル国防軍(IDF)によるパレスチナ・ガザ地区への地上侵攻。その際の切り札とされているのがIDFが持つ最強ブルドーザーD9R装甲ブルドーザーだ。
D9装甲ブルドーザーとは
D9Rブルドーザーは、もともと1954年にアメリカの重機メーカー”キャタピラー”社によって開発された大型履帯式ブルドーザー「キャタピラーD9」がベースだ。全長8.1m、幅4.5m、重量49t。2人乗りで474馬力のエンジンを搭載。最大速度は前進で11.7km/h。後進で14.6km/h。耐久性、信頼性、低運用コストと知られ、世界で最も人気のブルドーザーの一つでもある。そのD9をIDFが独自に装甲化、武装化するなど軍事用に強化したのが”D9装甲ブルドーザー”になり、現在の最新版がD9Rになる。
IDFでの採用と戦線への投入
D9は登場後直ぐに、イスラエルで民生用に導入されると、IDFの重機建機としても採用される。軍ではテディベアを意味するDoobi(ドゥービィ)と呼ばれた。
重機は主に土木、建設、運搬作業のための車両であり、軍でも主に障害物の排除や基地や拠点の建設など非戦闘環境で使用されるが、IDFでは導入当初から前線で使用された。最初の投入が1956年の第二次中東戦争になり、その後の1967年の第三次、1973年の第四次中東戦争でも投入される。D9には障害物を除去したり爆発物を爆発させるために大型の前部ブレードと後部のアタッチメント式のリッパーが装着され、軍が通るルートを切りひらき、道中にある地雷の排除に使用された。IDFは第四次中東戦争まで民生品のままD9を軍で使用していた。ブルドーザーはもともと強固な作りではあるが、民生品では銃や爆弾に耐えるには限度があった。特に乗員が乗るコックピットは前線では無防備になる。
装甲化
そこでIDFはD9のコックピットを防弾ガラスにするなど、15トンの追加装甲と強化ブレードで覆うなど、装甲化したD9を独自に開発。機関銃、擲弾発射装置、または発煙装置も装着可能で武装化もされた。これにより、全長は8.2m、幅4.6mとサイズは若干大きくなり、重量は62tと大幅に増加した。
装甲化されたD9が初めて戦線に投入されたのが1982年のレバノン戦争になり、以降、パレスチナとの闘争にも投入され、第2次インティファーダ(2000~2005年)ではRPGロケット弾や100kg爆弾の衝撃にも耐えたことで評価を上げる。銃弾やロケット弾を弾き、爆発物や障害物をものともせずに突進してくるD9にパレスチナの戦闘員は恐怖に慄いとされ、建物に立て籠もってもD9が家ごと押し潰すので、D9が登場した際は戦闘員は降伏したとされる。
その後も何度か装甲強化が施され、2006年に登場したスラット装甲を追加したD9Rは世界で最も装甲化されたブルドーザーとしてギネス世界記録に記録された。
ガザ侵攻が始まれば、おそらく、メルカバ戦車ではなく、D9Rが先陣をきって突入するかもしれない。ただ、序盤は激しい抵抗が予想されることから。2018年に運用が始まった遠隔操作可能なD9Tパンダが無人車両として投入されるかもしれない。