
オーストラリアがウクライナに供与すると約束していたM1A1エイブラムス戦車の引き渡しが大幅に遅れている。国防省は否定しているが、軍関係者は非公式に、遅延の背景には米国の抵抗があると示唆している。
A fleet of aging army tanks donated to Ukraine is yet to leave Australia
オーストラリアの公共ニュースABCによれば、政府が昨年、ウクライナに約束した退役したM1A1エイブラムス戦車の供与は未だオーストラリア国内に滞留したままで、国防当局者は移送の遅れについて米国の抵抗があったと非難している。
オーストラリア政府は昨年2024年10月17日に退役予定のM1A1エイブラムス戦車59両のうち49両をウクライナに供与することを決定した。これらの戦車は、より新型のM1A2 SEPv3への更新に伴い退役するもので、供与の総額は約2億4,500万豪ドル、日本円で約230億円とされている。しかし、発表から6か月たった今も、エイブラムスはオーストラリア国内に留まり続けており、ウクライナへの最終出荷の承認を待っている状況と伝えれている。
というのも、エイブラムス戦車はアメリカ製の兵器であるため、国際武器取引規則(ITAR)に基づき、第三国への移転にはアメリカ政府の承認が必要になる。この承認がまだ降りていないとされている。お役所仕事であるため、往々にこれらの承認には時間がかかるものだが、ドナルド・トランプ大統領が今年3月にウクライナへの軍事援助を一時的に凍結したことが、この問題を更に複雑化させているとABCは伝えている。米国の承認なし輸送できないは勿論のことだが。仮に承認を得たとしても欧州に到着してから、ウクライナへの移送、さらに欧州でのメンテナンスや修理に関して米国の協力を仰ぐ必要がある。しかし、3月にはポーランド東部の都市ジェシュフに設置された共同運営の物流拠点から米軍の兵站部隊が撤退したと報じられるなど、米軍による協力の不確実性が供与の妨げになっていると報じられている。また、ABCは米国防総省が昨年、物流費とウクライナ国内での車両の維持管理の難しさを理由に、老朽化した戦車を寄贈しないようオーストラリアに警告したと主張するアメリカ当局者の懸念について報じている。
War in Ukraine 🇺🇦🇷🇺 Russian FPV Kamikaze Drone assaulting Ukrainian US-provided M1A Abrams Tank in Kursk Region #Ukraina #Russia #UkraineWar pic.twitter.com/IylHrgGzbX
— Skënderbeü_ (@AncientAlien01) March 28, 2025
また、オーストラリアの国防当局者はウクライナが本当にエイブラムス戦車を必要としているのかについても疑問を呈している。M1エイブラムスは世界最強とも称された戦車だが、ウクライナの戦場では、ことごとく破壊されており、米国はウクライナに31両のM1A1エイブラムス戦車を供与したが、既に22両が破壊ないしは損傷している。正面に強固な装甲を備えるエイブラムスもドローンや対戦車ミサイルによって脆弱な屋根や後部を狙われてしまっている。その上、エイブラムスは西側製戦車でも最重量で機動力に制限があり、ガスタービンエンジンは燃料消費が激しく、兵站の負担も大きい。ただ、ウクライナ軍もエイブラムスの防護を独自に強化、ソ連製の爆発反応装甲Kontact-1で車体・砲塔を覆い、砲塔には対ドローン用のコープゲージ装甲を追加するなど、同じ轍を踏まないよう、対策している。乗員の生存率は高く、多くが生き残っているとされる。ロシア軍に火力で劣るウクライナ軍としては一両でも多くの戦車が欲しいのが実情と思われる。
修理、改修のために遅れているという情報もあるが、オーストラリア陸軍のM1A1エイブラムスは2007年に調達されたもので、2024年6月に後継のM1A2 SEPv3エイブラムスが納入されるまで現役だったので車両の状態はよく、装備も古くない。オーストラリアはアメリカの同盟国として2001年のアフガニスタン戦争や2003年のイラク戦争に参加しているが、それらが終結した後の事もあり、一度も実戦に参加することな退役している。そして、オーストラリアのエイブラムスは輸出版で装甲に劣化ウラン装甲を使用していない。米国からウクライナにエイブラムスを供与する際は、この劣化ウラン装甲を取り除く改修に時間が要したが、それが必要ないので、修理、改修は最小限で済むはずであり、これに時間がかかっていると言う事は無いと思われる。
国防省の広報担当者は声明で「オーストラリアは2025年にM1A1エイブラムスの納入を予定通り進めており、M1A1の輸出手続きも継続中だ。国防省は、引き渡しや維持管理を含む贈与に関する合意された取り決めに沿って、ウクライナ政府と協力を続けている」と述べ、2025年中に納入すると発表している。