米陸軍はM270 MLRS多連装ロケットシステムを近代化し、退役した車両も復活させる

米陸軍はM270 MLRS多連装ロケットシステムを近代化し、退役した車両も復活させる
©Lockheed martine

アメリカ国防総省は5月9日、米陸軍がロッキード・マーティン社に対し、M270 MLRS多連装ロケットシステムの再建に向けて4億5,100万ドル相当の契約を締結したと発表した。これは既存車両の近代化、および、退役して倉庫に眠っていた車両を復活させ、M270 MLRS部隊を再建すると共に、同車両を採用する同盟国に対しても近代化を提供する。

Lockheed Martin Awarded $451 Million To Upgrade Additional US Army And International M270 Launchers

今回の契約は2019年に発行された最初の合意に2050年までのミッションをサポートするための資本増強を求める契約に続くものであり、M270 MLRSは少なくとも2050年までは現役であり続ける事を意味する。ロッキード・マーティン社の精密射撃部門バイスプレジデント、ジェイ・プライス氏は「近代化の取り組みは、戦闘で実証された発射システムにさらなる能力を追加し、M270シリーズの発射システムが今後数十年にわたって非常に効果的で信頼性が高く、NATO軍との相互運用性を維持することを保証する。」と述べた。近代化バージョンの「M270A2」には新しいエンジン、改良された装甲キャビン、新しい共通射撃管制システム(CFCS)を含むシステムの完全なオーバーホールとアップグレードが含まれると共に、射程延伸誘導弾(ER GMLRS)と精密打撃ミサイル (PrSM)が発射可能になる。米陸軍には現役のM270A1が225両、退役した初期モデルのM270が160両あるが、これら全てをM270A2にアップグレードする計画だ。

M270 MLRS

US Army

M270多連装砲ロケットシステム(M270 Multiple Launch Rocket System)ことM270 MLRSはM110 203mm自走榴弾砲の後継、ソ連の自走ロケット砲に対抗する形で英国、米国、西ドイツ、フランス、イタリアの共同によって開発された履帯式の自走多連装砲。1983年に西ドイツに初めて配備された。ブラッドレー戦闘車のシャーシをベースにM993キャリアビークルの3つ主要なシステム上に構成されており、現状のモデルは500馬力のエンジンを搭載し、最大速度64km/h、航続距離480kmを有する。M270には発射レールが無く、ロケット弾はコンテナから直接発射される。コンテナは使い捨て容器になっており、撃ち尽くしたらロケット弾を補充するのではなく、コンテナごと入れ替えて次弾を装填する。コンテナとロケット弾の寿命は長く、容器に収納したまま最長10年間、メンテナンスなしで保管できる。基本コンテナ二個に各コンテナには各6発、計12発のロケット弾を搭載している。大きく3つの兵装があり、1つ目のMLRSは主に面攻撃を目的としたクラスター爆弾を搭載した無誘導ロケットで最大射程は32km~45km。2つ目のGMLRSは都市部や山間部の標的を狙うために慣性航法システム、GPSガイダンスが追加された精密誘導弾になり、最大射程は90km。3つ目が最大射程300kmの長距離誘導ミサイルのATACMSになる。基本的な兵装は装輪式の高機動ロケットシステムHIMARSと同じだ。

M270A2

近代化されるM270A2には2つの新しい兵器が搭載可能になる。一つがGMLRSの改良版である射程延伸誘導弾(ER GMLRS)。既存のGMLRSの射程が最大90kmなのに対し、ER GMLRSはあらゆる気象条件で150kmまで射程が拡張されている。もう一つの精密攻撃ミサイル (PrSM)はATACMSの代替えとして開発された戦術弾道ミサイルで最大射程は500kmに拡大。更に移動体を狙える誘導能力を持ち合わせている。ATACMSよりもサイズが小さく、ATACMSはコンテナ一つに一発しか入らないが、PrSMは二発と搭載量は倍になる。

ウクライナでM270、HIMARSと自走ロケット砲システムが大きな戦果を上げていることで、各国で同兵器は再評価され、需要が増えた。2023年12月にはフィンランドが、2024年5月にはイギリスがM270A2に近代化する契約をロッキード・マーティン社と締結している。それに対し、陸上自衛隊はクラスター爆弾を廃止するオスロ条約の批准に伴い、クラスター弾を使用するM270の必要性が低下したとして、2029年度までに廃止する事を計画している。

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