日に日に緊迫度合いが増すウクライナ情勢。陸続きで、戦車大国である両国が開戦すれば、第二次大戦以来の大規模な戦車戦が展開される可能性が高い。とはいえ、こと戦車においてはロシアは質、量ともに米国を凌ぐ戦力を有している。ウクライナはロシアの戦車に対抗できるのだろうか。
両国の戦車保有数
世界最大の戦車大国であるロシアには約1.3万両の戦車があるとされている。しかし、その中にはT-34やT-54/55など、第二次大戦時以降の歴代ものも多数含まれており、実際に運用状態にあるのは3,000両にも見たない。しかし、それでも世界最大の規模になる。方やウクライナはソ連時代、戦車工場の集積地ハリコフを抱えていたこともあり、ソ連崩壊と同時に多数の戦車を引き継ぎ、現在、ウクライナ軍が保有する戦車の数は約2600両に上る。その内、いくつが運用状態にあるのかは不明だが、ロシアの現有戦力に匹敵する数を抱えている。
ロシアの戦車
ロシアは唯一の第4世代と呼ばれるT-14アルマータ戦車を有しており、無人砲塔、最新のアクティブ保護システム、100km圏内を検知するレーダーなど世界最強と言われているが、量産が遅れに遅れ、今年からを予定しているため、これが今すぐに戦線に投入される可能性は低い。そうなるとロシア軍の主力戦車で最も新しく基幹となるのがT-90の350両になる。
T-90
T-90はT-72をベースに改良を加えた第三世代戦車。1992年に採用されたがソ連の崩壊もあり、本格的な量産が始まったのは2000年代以降。その頃には性能も陳腐化していたこともあり、何度か改修が加えられ、2020年4月からは最新モデルのT-90Mプラルィヴが配備。運用中のT-90のほとんどがT-90Mにバージョンアップされる予定だ。T-90Mには一新された2A82-1M125mm滑腔砲が搭載され、精度は30%向上、Kalina射撃統制システムによって照準は自動補正される。砲弾数は43発で22発が自動装填装置によって装填。砲弾には3つの専用弾が用意され、劣化ウラン弾の「ヴァクーム1」、榴弾の「テリニク」は遠隔操作で起爆させることができ、誘導ミサイル弾の「スプリンテル」は飛翔中に軌道を修正できる。装甲にはRelikt爆発反応性装甲の最新バージョンを搭載、ソフトキル・アクティブ保護システムのShtora-1は敵の赤外線照準をうけると赤外線誘導を妨害、煙弾を撒き対戦車ミサイルを妨害する。新しい1130馬力の新しいディーゼルエンジンは整地を最高速度70kmに達し、これらの能力は第3世代戦車としては屈指の能力になる。
T-72とT-80
T-90の脇を固めるのが1972年に運用開始された第2世代のT-72と1980年に運用が始まった第3世代のT-80になり、合わせて1000両以上が運用中になる。一世代古い戦車だが、これらの半数近くが近代化改修されている。第2世代のT-72の最新版であるT-72B3Mは砲手用のマルチチャンネルにサーマルサイトが追加され、自動装填装置、射撃管制システム、通信制御システムが改良されている。防御面では20mm前面装甲と爆発反応装甲が追加。エンジン出力は840馬力と向上し、最大速度は70km/hと機動力が高く、第3世代戦車と同等の能力を有する。
T-80の最新版はT-80BVMになり、T-90と同じRelikt爆発反応性装甲を採用、主砲は2A46M 125mm砲の改良版が搭載され射程と精度が向上、射程5000mのRefleks対戦車誘導ミサイルを発射できる。エンジンには寒冷地にも強い1250馬力のガスタービンエンジンが搭載されている。性能的にはT-72B3Mと同等されている。
ウクライナの戦車
ウクライナの戦車は基本全てソ連時代に生産されたもので、独立後はそれを独自に改修してバージョンアップしている。戦車の基幹をなすのが350両のT-80とそれを近代化アップグレードし、1999年に運用が始まったT-84、そして2009年から配備されている最新戦車T-84BM Oplotを合わせた150両になり、T-80は順次、T-84に改修されている。そこに続くのがT-72の300両になる。最も数を占めているのが第2世代のT-64戦車で1000両以上を保有しており、2014年のロシアのクリミア危機、東部紛争以降、稼働数を増やしている。
T-90Mの対抗馬T-84BM
これらの戦車でロシアのT-90Mに唯一対抗できると思われるのがウクライナの最新戦車であるT-84BM Oplotになる。主砲の125mm滑腔砲は多くのロシア戦車同様に砲身からレーザー誘導の対戦車ミサイルが発射可能で、最大交戦範囲は5000mと攻撃力はロシア側の戦車と同等とされる。装甲にはロシアの徹甲弾を防ぐ次世代のデュプレット爆発反応装甲(ERA)を装備しており、これはロシアのKontakt5反応装甲よりも優れているとされ、ロシアのRelikt爆発反応性装甲に匹敵する。アクティブ保護システムのShtoraも搭載され、対戦車ミサイルの命中率を低減。これにハードキルのアクティブ保護システムZaslonを取り付けされることも報告されているがまだテスト中とされている。しかし、T-84BMには大きな欠点があるとされ、自動装填装置の弾詰まりが頻発すること。これの影響もあってか配備は10両~と戦力としては圧倒的に少ない。
T-84はRefleks対戦車誘導ミサイル、爆発反応装甲、アクティブ保護システムのShtora、1200馬力のディーゼルエンジンと性能的にはT-80BVMと同等とされている。
T-72とT-64
T-72の改良版であるT-72AMTは新しいNozh爆発反応装甲に加えて、パッシブサーマルイメージング、追加のサイドスカート保護、新しいデジタル無線、第3世代の電子光学コンバーターを備えた最新の暗視装置、ドライバーおよび衛星ナビゲーションなど近代化しているが、T-72B3Mには及ばない。
一番車両数が多い第2世代のT-64は2000年代に第3世代化改修を行いT-64BMとしてバージョンアップされている。車体後部のエンジンルームを変更し、T-84と同じ新しい1000馬力の6TD-1エンジンとギアボックスに交換。射撃制御システムには夜間戦闘の有効性を向上させるためにサーマルイメージャーを備えた1G46照準装置に置き換えられた。新しい主砲は対戦車ミサイルが発射でき、性能的にはT-72と同等になる。とはいえ、T-72とT-64の近代化も総数の半分にも満たない。
ロシアのT-90、T-80、T-72に真っ向勝負で対抗できるのはウクライナの戦車T-84シリーズだけになるが、ロシアが1000両以上保有するのに対し、ウクライナは150両と戦力差は圧倒的だ。T-72とT-64は数あるものの性能差は歴然で戦車同士の真っ向勝負は圧倒的に不利だ。また、これを言っては本末転倒だが、ロシアはまずは圧倒的な航空戦力で戦車を潰しに掛かると思われ、ロシアの戦車と相対峙する時は多くの戦力を失っている可能性が高い。