
ドイツの防衛産業大手KNDSは2025年11月19日、同国軍向けに完全新造された主力戦車「レオパルト2A8(Leopard 2A8)」を初めて公式に公開しました。ドイツ連邦軍が新造車両として主力戦車を導入するのは、1992年以来33年ぶりのことです。ウクライナ戦争を背景に欧州各国で重装備の再整備が進む中、最新の戦場、特にドローンによる脅威に対応した2A8の登場は、今後の欧州戦車市場の動向を大きく左右する転換点となる見込みです。
ドイツ連邦軍への導入と配備計画
🚨🇩🇪 BREAKING: Germany has introduced the Leopard 2A8, its first entirely new tank design for the Bundeswehr in more than three decades.
— The Battlefield (@TTheBattlefield) November 20, 2025
Showcasing top-tier German engineering, the tank comes with enhanced armor protection, an improved 120mm smoothbore main gun, and cutting-edge… pic.twitter.com/eXq1JLD7h4
今回KNDSドイツ・ミュンヘン工場で披露された2A8は、ドイツ連邦軍が発注した123両のうちの最初の完成車です。これまでドイツ軍のレオパルト2戦車は既存車両の近代化改修によって延命されてきましたが、今回完全な「新車」の製造が再開されたことは、ドイツが装甲戦力の再構築に明確に乗り出した象徴的な出来事と言えます。 最初の18両は2027年までに就役し、リトアニアに駐留する第45機甲旅団に配備され、NATOの東部戦線防衛能力の強化に貢献します。2030年までに全車両が納入される予定です。今後の評価や安全保障状況によっては、さらに75両の追加発注が計画されています。ノルウェーやチェコなど、欧州の複数国も既に2A8の採用を発表しており、レオパルト2シリーズが欧州共通の主力戦車としての地位をさらに固めることが確実視されています。
ドローン時代のレオパルト2A8の主な刷新点
外観は従来のレオパルト2シリーズの進化形ですが、2A8はその内部が大幅に刷新され、現代戦の脅威に対応する能力を強化しています。
- 最新防護システム(生存性の向上)
ロシア・ウクライナ戦争で顕在化した無人機(ドローン)とATGM(対戦車誘導ミサイル)の脅威に対応するため、以下の装備が標準化されました。- アクティブ防護システム(APS)「トロフィー」: 迎撃レーダーと爆発型迎撃弾で敵ミサイルを撃破します。
- 上面・底部の追加装甲強化: 特にドローン爆弾(FPVドローン)対策として砲塔上面の防護力が引き上げられました。また、市街地・低強度紛争を意識した地雷・IED(即席爆発装置)防護モジュールによる底面装甲の強化が施されています。
これにより、従来型レオパルト2に比べ、ドローン・ATGM、対戦車地雷に対する生存性が飛躍的に向上しています。
- 状況認識・センサー能力の向上
乗員の認識能力と反応速度の向上、迅速なデータ共有を可能にする最新装備が搭載されました。これは、ドローンや高速ATGMを相手にする現代戦において不可欠な要素です。- 砲塔全周の監視センサー
- レーザー警告受信システム
- 新型射撃管制装置(FCS)
- 夜間・悪天候でも精度を発揮する最新光学システム
- 乗員環境・自立性の改善
長時間にわたる戦闘継続能力を高めるための改善が図られています。- エアコン性能の強化
- APU(補助動力装置)の搭載:エンジン停止中でも電装システムを稼働可能にします。
- 新型デジタル通信システム
高性能化に伴い、2A8の戦闘重量は約69.5トンと70トンに迫り、輸送や展開、機動力の面が今後の課題となる可能性があります。
ドイツとフランスは共同で次世代主力戦車「MGCS」(Main Ground Combat System)を開発中ですが、その実用化は早くとも2035年〜2040年とされています。このため、今後10〜15年間、2A8がNATOの装甲戦力の中核を担うことになります。しかし、独仏共同開発の次世代戦闘機FCASの協力関係が解消に向かう可能性があり、MGCSの先行きにも暗雲が立ち込めている状況です。この進展次第では、2A8が長期的に欧州の主力戦車としての地位を維持する可能性も出てきます。