
イラク軍は現在保有するM1A1エイブラムス戦車の一部、および旧式のソ連/ロシア製T-90S、T-72戦車の後継として、韓国製のK2ブラックパンサー戦車の導入を検討していると報じられています。
韓国メディアは9月、防衛関係者からの情報として、イラク軍が約250両のK2ブラックパンサー戦車を購入し、現在運用している約140両のM1A1エイブラムス戦車、T-90S、T-72戦車を段階的に置き換える案を検討中であると報じました。この報道によれば、契約総額は約65億ドル(約9兆ウォン)に上るとされ、イラク軍上層部がK2戦車の製造元である韓国の現代ロテムの工場視察などを通じて実現可能性を評価し、年内にも最終決定が下される見込みです。これらの報道を受けて、現代ロテムの株価は一時7%高騰しました。
しかし、現代ロテムは9月26日、K2戦車のイラク輸出に関するメディア報道について「確定された事項はない」と公式に発表しました。同社は「輸出国の多様化のため、様々な国とK2戦車の輸出に関する営業活動を行っているが、現在確定された事項はない」と説明しています。ただ、この発表は、イラクがK2戦車を検討している事実を否定するものではなく、現時点ではイラクがM1A1エイブラムス戦車の代替としてK2ブラックパンサー戦車を検討しているという報道は「可能性・検討段階」としては非常に有力であると考えられています。
M1A1エイブラムスからK2転換の背景

イラク軍が旧式のT-72戦車や、ロシア・ウクライナ戦争の影響で部品調達が困難になっているT-90Sを置き換えることは理解できますが、米国から取得したM1A1エイブラムス戦車を韓国のK2ブラックパンサー戦車に置き換えるという動きは、一見すると意外に思えます。
イラク軍は、1991年の湾岸戦争や2003年のイラク戦争において、米国のエイブラムス戦車に苦戦を強いられ、その高い性能を目の当たりにしました。その後、イラク側が米国にエイブラムス戦車の導入を要望し、2010年から有償軍事援助(FMS)を通じて140両のM1A1エイブラムス戦車の供与が始まり、2012年までに全て納入されました。M1A1エイブラムス自体は新しいモデルではありませんが、入手は割と最近です。
しかし、実際に導入してみると、エイブラムス戦車は確かに強力である一方で、ガスタービンエンジンの燃料消費量が多く、エンジン・トランスミッションなどの補修部品の供給、および専門技術者の育成にかかる維持コストが非常に高いという課題が浮上しました。特に中東やイラクの環境(砂塵、高温など)での運用は汚損が激しく、整備負荷が重いため、「保守コストが高く、使いづらい」という声が上がっていました。さらに、他の主力戦車がソ連/ロシア製のT-72とT-90Sであるため、それぞれ部品、整備、訓練、弾薬形式が異なり、全体の整備・補給体制が複雑化していました。
K2ブラックパンサー戦車検討の理由

こうした状況の中、主力戦車の統一化と運用負荷の軽減を図る目的で、韓国のK2ブラックパンサー戦車が検討対象に上がったとされています。K2戦車はアラブ首長国連邦(UAE)やカタールといった中東地域での演習での運用実績が報じられており、砂塵や高温下での性能・信頼性がエイブラムスよりも優れている可能性があると評価されています。K2は演習で、最大有効射程(3km)を超える4.5kmの標的を100%の命中率で攻撃し、優れた性能を証明。最新の射撃統制システムや自動標的捕捉・追跡機能も高く評価されたとされています。
また、韓国はサウジアラビアとUAEへの売り込みを強化するため、2025年にはK2戦車の砂漠仕様であるK2MEを発表しました。K2MEは高温の砂漠地帯での運用を想定して設計されており、強化された冷却・濾過システムを備え、補助電源装置(APU)など、熱、埃、砂の影響を抑制する設計が施されています。砂漠での試験においても良好な結果を出したと報じられています。
さらに、エイブラムス戦車と比較して、K2戦車は新しい設計であり、今後の拡張性が高いというメリットがあります。火力、射撃管制、センサー、電子制御、装甲といった面で将来的な発展が見込まれます。また、エイブラムスよりも軽量であるため、必ずしもインフラが十分に整備されていないイラクにおいて、その機動力は大きな魅力となります。
性能面以外にも、K2戦車は技術移転やライセンス生産に柔軟な姿勢を示しており、保守拠点の設置、納品スケジュールの早さなど、大きなメリットがあります。報道の中には、正式契約が成立すれば「数年内」に最初の部隊への納入が可能であるとの見通しを伝えるものもあります。ポーランド軍向けの生産を行っている韓国のK2の最大年間生産能力は200両です。駐留米軍が来年にイラクからの撤退を控えている中、短期間で戦力を揃えられるのは魅力です。
もしイラクがK2戦車を採用すれば、現在売り込みをかけているサウジアラビアやUAEとの交渉にも有利に働くでしょう。サウジアラビアとUAEは、韓国製のK9サンダー自走榴弾砲の導入の可能性も高いと報じられており、韓国が中東の兵器市場でシェアを大きく拡大するかもしれません。