アメリカはウクライナへの軍事支援としてエイブラムス戦車31両の提供を発表した。しかも、古いM1A1ではなく、新しいM1A2を送るとのこと。ただ、在庫のM1A1をこれからアップグレードするので、数か月の時間が掛かる見込みだ。
エイブラムスは実戦ベースでは世界最強と言われており、ウクライナにとっても心強いだろう。エイブラムスがその名を知らしめたのが1991年の湾岸戦争で、イラク軍のT-72戦車相手に無双したというのは有名な話だ。T-72は現在のロシア軍でも最も数を占めている戦車だ。「砂漠の嵐作戦」ではイラク軍が160両の戦車を破壊された中、米軍のエイブラムスは23両が損傷、内、破壊は僅か9両だけであり、しかも、その内7両はフレンドリーファイア、味方からの誤射によるもので、残りの2両もイラク軍の鹵獲を防ぐために破壊されたもの、つまり、約43日間の戦闘で敵によって破壊された車両は1両も無かったということになる。しかし、気になるのは破壊された原因を占めるフレンドリーファイアだ。いったい何があったのであろう。
装甲が弾いたロケット弾を攻撃と誤認された
1991年2月27日、米陸軍第3旅団はイラク南部を前進するイラク共和国防衛装甲師団の部隊と交戦していた。前方に展開していたM1A1エイブラムスがイラク軍部隊と会敵、RPGロケットランチャーの攻撃を受けた。しかし、厚い装甲で守られたエイブラムスにRPGは効かず、ロケット弾は装甲の外で爆発するだけだった。部隊はイラク軍に包囲され、集中砲火を受けていたが、イラク軍が持つ小火器ではエイブラムスの装甲を破ることはできなかった。この戦闘の様子を2kmほど離れたところから別の米軍戦車部隊がサーマルサイトで観測していた。この時代、暗視装置や赤外線カメラの解像度は現在と比べればかなり粗い、戦車部隊はエイブラムスの装甲に弾かれ、爆発するロケット弾がこちらに向かって砲撃していると誤認。交戦中の味方の戦車に向かって主砲の44口径120mm滑腔砲から劣化ウラン徹甲弾(APFSDS)による砲撃を開始。結果、5両のM1A1エイブラムスと5両のブラッドレー戦闘車が破壊され、6名が死亡、25人が負傷した。最強の盾を持つエイブラムスを破壊したことで、エイブラムスの攻撃力を実証したわけだが、その代償は大きかった。
米軍の統計では死傷者の2~25%はフレンドリーファイアによるものだとされている。