第二次大戦時のナチス・ドイツの巨大戦車というとMaus(マウス)が有名ですが、もう一つ巨大戦車の計画がありました。戦艦並みの主砲を擁し、兵士40人を乗せる超弩級戦車”Landkreuzer P. 1000 Ratte(ラーテ)”です。
総重量1000トンの巨大戦車計画
独ソ戦開戦の翌年1942年初め、ナチス・ドイツはアドルフ・ヒトラーの指令により戦闘重量が1,000トンを超える超重戦車の開発計画が開始されます。このプロジェクトを請け負ったのはI号戦車、IV号戦車の設計や数々の大砲を生産し「大砲王」と呼ばれ、当時のドイツ最大の武器メーカーであるクルップ社です。同社はこのプロジェクトに多くの優秀な人材と資金を投入します。独ソ戦でソ連の戦車に苦戦していたドイツ軍は、この戦車が投入できれば戦況を大きく変えることができると考えていました。
Ratteはドイツ語クマネズミ、ドブネズミを意味します。Maus(マウス)と同じくネズミの名前を付けたのはその巨体をカモフラージュする意図があったと思われます。
ラーテの設計内容
当初の設計案ではラーテの全長35m、幅14m、高さ11m、前面装甲の厚さが360mm、総重量は1000トンに及びました。当時、最強といわれたドイツのティーガー戦車が全長8.5m、重量60トンです。巨大と言われたMaus(マウス)戦車で全長10m、重量188トンです。ラーテの総重量はティーガーの17倍、マウスの5倍です。
その巨体を動かし、最高速度40 km/hを出すために総出力16,000馬力、20気筒ディーゼルエンジンを8基の搭載。現代戦車のエンジン出力の平均が1500馬力前後なので、その10倍です。
武装
兵器構成に関して、主砲は独海軍のシャルンホルスト級戦艦の主砲と同じ280 mm艦砲が2門、副砲に128mm砲が1門、更に20mm対空砲が8門、15mm砲を2門装備します。戦艦と同じ主砲に副砲、対空砲とまさに地上を動く戦艦です。ガンダムに出てくるビッグトレーを思い起こさせます。これほどの火力を有する地上兵器は当時はもちろんありませんし、現代でもこれほどの砲門を単体で有する地上兵器はありません。
最大40人で操作
しかし、これだけ大きく、武装も多いとなると動かすために多くの人員が必要になります。一般的な戦車は車長、操縦手、装填手、砲手の4人で操作します。現在は自動装填が一般的になり、装填手が居ない3人が通常ですが、3~4人が基本です。だが、ラーテの操作には少なくとも27人が必要であり、最大40人の兵員を乗せて戦います。
重すぎた車両
ラーテは致命的な問題を露呈しました。重量が重すぎてほとんどの橋梁が耐えられず、河川を渡ることができなかったことです。そのため、活動範囲が限定されます。そして、その重量から燃費も非常に悪く、最大航続距離は180kmと長距離の任務をこなすことができません。速度も最大速度40km/hに及ばず、他の機動部隊や戦車部隊とは行動が共にできず、その鈍足では敵の格好の的になるだけでした。
計画は中止に
戦車としての致命的な問題により、ラーテの開発計画は当時の軍需大臣であったアルベルト・シュペーアによって1944年に中止されます。この時、ラーテを超える1500トン級のP.1500 Monsterの開発計画もあり、合わせて中止されています。実際、どこまで開発されたのかは不明でP. 1000 Ratteは計画の資料しか残っていません。